前回の記事「危険な輸入代行業者「ヴェルテ」および「ウェルテ」(株式会社シティ、旧ドゥモア)のこと」ではキュレーションセールスサイトと称するヴェルテの身勝手と言わざるを得ない商売について書きました。
今回は同じ事件について切り口を変えてもう少しやります。
結論
ヴェルテのような商売が無邪気に紹介されると厳しいので、詐欺の片棒を担いだと言われない程度に調べてからやってほしい。
それはどういうことか
「ヴェルテ(株式会社ドゥモア)は海外通販のリスクを一切引き受ける気がないと明言しているうえ、仲介業としての性能が詐欺的なまでに低いとみられるため使わない方がよい」という話は前回しました。
今回も小型スマートフォンJellyおよびJelly Proを引き続き例にとり、ガジェット界隈のプレスやblogなどのメディアがヴェルテにどう反応したかを見て文句を言っていきます。
なお「ドゥモア」がクレジット決済業者やPaypalあたりのブラックリストに載りでもしたのか、2018年4月末頃に株式会社シティへと登記も含め社名を変更した旨、タイトルとここに追記しておきます。
発送遅延の現状
先にヴェルテの方のおさらいをしますが、5月に受注開始し9月に発送見込みだったJelly Proは12月上旬となった今日でも、その5月受注分すら全量は届いていないと言われています。
クラウドファンディングの製品としては2ヶ月の遅延などは問題にならないという向きもあるかと思いますが、この場合はKickstarter分の出荷はとっくに完了していて、さらに公式ストアもオープンしているため今から公式へ注文すれば2-3週間程度で手に入るものが、仲介業者の都合で2ヶ月以上遅れているという現状があります。
わずかずつでも発送はされているそうですが、750以上の注文数に対しUnihertz社からヴェルテに出荷された数は200という情報もあるため本当に届ける気があるかどうかを含め予断を許しません。
誇大広告「技適マーク取得」
ヴェルテの扱うJelly Proについては技適認証を取得するという虚偽すれすれの内容をプレスリリースとして出した話もあります*1。
中国Unihertz社は好調な滑り出しと日本からのバッカーの多さから、日本の技適マークの認証を取得することにいたしました。従来からCE、FCC、RoHSを取得する予定でしたが新たに日本の技適マークを取得いたします。
取る(取った、ではない)というリリース*2のあと、商品ページではこのようなことを宣うわけです。
適合認証予定 CE、FCC、RoHS、技適マーク(後日アップデートでソフトウェア表示予定)(当初、メーカーが「技適メークを取得すべく動いている」とコメントしていたが、現在も「まだ取得していない」と進展の様子がうかがえない)
なんで他人事なの。まさか他社の動向を憶測で発表したんですか。
小型スマホのJellyが技適を取得するって話を一応開発元のUnihertzに問い合わせてみたんだけど、「我々は技適取ってないし、ちょっとヴェルテに連絡してみる」って返ってきた。なお、KickstartarのFAQは技適について非掲載 https://t.co/12lpE70oF2 https://t.co/7iTL0UFp4E
— memn0ck (@memn0ck) 2017年5月23日
ニュースサイトS-MAX主宰の指摘を見ても、メーカー側が技適取得予定と言ったソースは少なくともKickstarterには無く、ヴェルテが雑なコンタクトをもとに雑なことを言っていただけ、またはコンタクトする前から雑なことを言っていただけの可能性まであります。
誇大広告「正規代理店」
これは前に少し触れましたが、代理店になったというリリースも大ウソでしたね。
プレスリリースが下記で、
キュレーションセールスのヴェルテ(東京都渋谷区)は、中国Unihertz社(中華人民共和国上海)製世界最小LTEスマホ「Jelly」の正規代理店となったことを本日発表いたしました。(中略)
正規代理店:ヴェルテ(株式会社ドゥモア)
ヴェルテ、話題の世界最小LTEスマホ「Jelly」の正規代理店に~中国Unihertz社、日本市場に新規参入~ - 株式会社ドゥモアのプレスリリース
商品ページが下記です。
輸入(正規代理店を名乗るには「クラウドファンディングでパートナーになるコースにバックするだけでなく、別途商談と契約締結が必要、だから君たちとはまだ無関係。」とメーカーが言い張る。はぁ???年間コミットとか無茶な要求されそう。上海オフィスに商談に行く予定。恐ろしや中国人。要求をうのみにすると大変。):ヴェルテ(株式会社ドゥモア)
代理店に成り損ねて悔しいことは伝わってきますが、しかしまあ条件を出されただけで堂々と中国人を罵倒し始める自称キュレーションセーラーとは恐ろしいものですね。
条件の確認すらしていなかった案件を「たぶん取れると思う」という憶測でプレスリリースに流したことには技適の件同様あきれる他ありません。
ヴェルテを紹介したウェブ上の記事たち
現時点でJelly Proに技適マークは付いていないし、ヴェルテは正規代理店ではないという前置きを済ませたところで、本題としてこの詐術や予断の込められたプレスリリースをプレスやblogがどう扱ったか見ていきます。
先に書いておくと、いくら当時から悪評が凄かったとはいえ、この最悪に近い現状を発表時点で予測することは難しかったとも思います(私もまさか正規代理店を取り消されるどころか交渉すら始まっていないとは想像できなかった)し、後知恵ならば幾らでも言えることは分かっています。
d.365
今回紹介する中だとここはプレス(商業ニュースサイト)色が強いでしょうか。ライターはプロの塚本直樹さんです。
https://www.digimonostation.jp/0000096971/www.digimonostation.jp
技適を取得し国内展開、これは熱い流れに!
先日ご紹介した、世界最小4Gスマホこと『Jelly / Jelly Pro』。こちらがなんと日本の「技適マーク」(技術基準適合証明/技術基準適合認定)を取得し、キュレーションセールスWebサイトの「ヴェルテ」を通じて2017年8月に国内販売されることになりました。
ある意味熱い流れになったとは思いますが。
技適マークを取得する者と販売する者が異なることをひとつのプレスリリースにまとめてしまうのも「やり口」だろうな、と思います。ニュースサイト的な手癖でこれを要約されると、上の文章のようにまるでヴェルテが技適を取得するように読める文章が生成されるわけです。
格安スマホNAVI
http://ilmd.jp/trends/jelly-lte1708.htmlilmd.jp
Jellyは海外で開発されたスマホですが、うれしいことに日本でも販売されることになりました。国内での使用に必要な技適も取得済みです。
販売するのは、海外のクラウドファンディング商品の輸入を手がけている株式会社ドゥモアです。
同社が運営するショッピングサイトWelte(ヴェルテ)で、2017年5月より予約を受け付けています。
これも同様の技に引っ掛かっている感がありますね。株式会社ドゥモアが技適マークを取得する主体に見えてしまう。
orefolder.net
また、これまではKickstarterにおける出資で手に入れる形でしたが、日本のヴェルテが正規代理店となり日本語で購入することができるようになりました。Kickstarterでの出資に不安がある方でも、代理店経由なら安心ですね。
ヴェルテは正規代理店になろうが並行輸入だろうが前回の記事に書いた通りノーリスク主義を当時から貫いているので、「代理店経由なら安心」という物言いは代理店という字面からの想像が過ぎるでしょう。これではプレスリリースに書かれていないことを読み取って「安心」という2文字を付け加えてくれる、株式会社ドゥモアにとって良質なスピーカーですよ。
いや、常識的に考えれば保証・補償を初めから放棄する約款を掲げる正規代理店など有り得ないので、そんなものは初めから想像の外というのは、それは良く分かるのですが。
うーん…「yet」ということで、「まだ」取得していないということは、これから取得する予定はある、とも読み取れます。なのでまぁ取得するだろうと期待はできます。ですが「取得済み」とはなっていないので、そこは注意したいところです。
また、代理店のヴェルテ自体が、あまり評判よくないようです。このあたりはググると良いと思いますが…。英語がどうしても駄目というのでなければ、Google翻訳を使ってでもKickstarterから出資して手に入れたほうが良いとは思います。たぶん出荷もそちらのほうが速いと予想されますし。
後にUnihertz社が「技適マークの取得は確定していない」と訂正を出した時には一気にトーンダウンしてフォローを入れています。最初の記事にも修正を入れた方が良いのではと思いますが、あまりそういうことはしないポリシーでしょうか。
(2018/02/10追記)先日確認したところ、最初の記事にも追記のかたちで補足が行われていました(内容からして2018年2月に入ってからの追記)。よかったと思います。
すまほん!!
https://smhn.info/201705-jelly-for-japansmhn.info
こうした反響を受けて、中国Unihertz社はCE、FCC、RoHSマークのみならず、新たに日本の「技適マーク」を取得することを発表しました。
厳密にはUnihertz社は発表しておらず、Sourceのリンクにあるのは株式会社ドゥモアが「Unihertzがそう言ってる」と無関係な他社の動向を自社のプレスリリースとして発表している様子ですね。
いや、常識的に考えればそんなことは有り得ないので、もしリリースを読み込んでいたとしても「有り得ないことが行われているのではなく、正式にパートナーシップを結んだ故の情報ルートがあるのだろう」というバイアスが働くのは良く分かりますし、ヴェルテへのリンクを載せないのも良識の結果であろうと思いますが‥‥。
https://smhn.info/201710-soyes-7s-japansmhn.info
以前ヴェルテはJelly Proを取り扱ってますが、当初正規代理店を名乗っていたはずが、実際には正規代理店とはなっておらず、発送遅延などを訴えるユーザーも複数いるなど、基本的にヴェルテからの購入は自己責任となります。
後のSoyes 7S(これもヴェルテが売った。こちらはマトモに発送されたらしい)の際には比較的はっきりとした批判になっていますね。
ウインタブ
また、この製品は株式会社ドゥモアが運営するサイト「Welte」でも予約注文を受け付けており、そちらではJellyが10,800円(税込み、送料込み)、Jelly Proが12,800円(税込み、送料込み)となっています。また5月29日以降はJellyが14,800円、Jelly Proが16,800円になるとのことです。なお、WelteについてはGoogleで適当に検索していただければ、と思います。
ウインタブ読者と私の好みの方向性からして、「とりあえず買いたい」ということになると思うのですが、「技適マークがあるのなら」という前提を置く人も多いと思います。注意したいのは、現時点で株式会社ドゥモアがその旨のプレスリリースを出しているだけで、しかも同社が正規代理店として責任を持って技適マークを取得するのではなく、「中国のメーカーが取得する予定だ」と言っていることです。
とりあえずKICKSTARTERに出資するもよし(今回は大丈夫だと、個人的には思っています。責任取れませんけど)、Welteで予約するもよし、正式発売されてから中国の通販サイトで購入するもよし、だと思いますが、技適については現状「予定」というステイタスなので、心配な人は正式発売を待ってもいいかもしれませんね。
強調は引用者によります。
Kickstarterの「出資」であること、ヴェルテの評判についてさらりと言及していること、価格差があること、プレスリリースは株式会社ドゥモアが勝手に言っているだけであることなどが盛り込まれ、リスクが提示されています。
「日本で売るんだって!!」と無邪気に喜ぶか、自称代理店の存在を完全に無視するかという言及はそこそこ見ましたが、こちらのように事前に判断材料を提示する選択肢は個人的に好感が持てます。
s-max
対応周波数帯もNTTドコモが利用するBand 19(800MHz帯)やソフトバンクが利用するBand 8(900MHz帯)にも対応しており、日本でも使いたいところですが、一部で技適マークを取得するといった発表を行なっていたところもあったものの、現時点では進展はないようです。
製品完成後、法にのっとったかたちでレビューを行っている記事のなかで「一部」と極わずかに触れられました。黙殺や当てこすりに近いですね。
そのほか概況
Impress、アスキー、Engadget、Techcrunch、Gizmodo、ガジェット通信などの日本語商業大手サイトでは製品自体を紹介しなかったり、秋葉原に実物が並んだ時だけ扱ったりと、この製品に関してはヴェルテの影は見つかりませんでした*3。cnetなど海外翻訳メディアもJelly Proだけを紹介して日本の販路に言及しないことが多かったように思います。
大手プレスにはほぼ無視されたとはいえ、それでも今回の狭く強い商材をインパクトある言葉で広い範囲に投げつける宣伝はそこそこうまいこと当たってしまったように見えますから、いずれ名前を変えて同じことを始めるかも知れませんね。
その他ヴェルテを扱った記事には、以下のような好意も敵意もあまり持たない以下のようなものがありました。
- コインポケットに入る世界最小4Gスマホ「Jelly」!画面サイズ2.45インチの尖ったサイズ感は旅のお供になれるのか? – Ollie-style
- 大画面全盛時代に登場する2.45インチ超小型スマホが魅力的! - ZAKKI LOG
- ITライフハック
- 2.45インチでLTE対応のスマホ「Jelly」、Kickstarterに登場、価格59ドルから、日本でも販売
- 世界最小スマホ「Jelly」が技適マークを取得へ – ガジェットギーク
- 世界最小のAndroid OSベースのLTEスマートフォン「Jelly/JellyPro」の先行販売開始。10,800円から。 – PALMFAN(10月に指摘を受け訂正している)
- Jelly【世界最小スマホ】の購入方法は?最新Andoroid OS搭載で日本での利用も可能!
「ヴェルテに好意的な記事を書くプレスやblogは株式会社ドゥモアから利益を得ている(=記事広告を書いている)」という見方もたまにありますが、全体としてそのようなことはないと信じていますし、そもそも双方にとってメリットが薄いと私は考えています。だからこそ、評判の悪い業者をわざわざ持ち上げてやる必要もないだろうもうちょっと調べてくれ、とも思うのですが‥‥。
最後に
ガジェット紹介メディアの反応を後知恵を交えながらいくつか紹介しました。
感情や気合を入れ込んだ記事ほど後々周囲に与えるダメージが大きそうに見えるのは残念な話で、そこをあまり強く咎めてもいけないとは思います。ヴェルテをマトモな正規代理店であるかのように紹介するのは間違っているが、Jelly Proが「刺さる」端末であることを公言したい気持ちは間違っていない。
ではありますが、私はヴェルテのような商売が「輸入代行だから、キュレーションセールス(何だよそれ)だから」という言い訳でまかり通り、「発送する意思はあるから、遅れたとはいえ商品が届いているから」という言い訳で当局の手を逃れていることについては世の中のバグだと思っていますし、そうした感覚は世間にも通用すると自惚れているので、人を舐めた商売を無邪気に紹介するプレスやブログについてはどうしても一度、残念だと言っておきたかったのです。
評判の悪さの知れていた業者からものを買ってしまった人は「賢い消費者」とは呼べない選択をしてしまったかもしれませんし、本人にもある程度の責任はあると思います。しかし、詐欺を選別せずに宣伝に加わるプレスやブログの選択もまた「賢い消費者」なるものから外れてはいないだろうか? 広くそれを奨めてしまった責任はないのか? とも思います。未来の予測は難しいとしても、ウインタブの記事のように当時からでも知りうる事はあったはずです。
理想の中の理想の話をしてしまうと、消費者を相手にしているメディアには/発信者には「賢い消費者」の意識を以て、私を含む時と場合によって賢くない選択をしてしまう人に助言を与えるような存在であってほしいのです*4。いや、私のようなボンクラが人にばかり理想を押し付けるのもおこがましい話ですが‥‥。
補遺
書いている途中に出てきた新情報について、これだけは本文に挟めなかったのでここに載せておきます。
@UnihertzJapan UnihertzはJelly Pro携帯電話のJATEとTELEC検定認証をしています。検定認証を完成した後、Jelly Pro携帯電話は日本のAmazonにオンライン販売の予定がありますので、お楽しみにしてくたさいません。もしもっと知りたい情報があったら、ご遠慮なく連絡してください:Anita@unihertz.com
— Unihertz (@Unihertz) 2017年11月23日
技適と日本の販路についてUnihertz社が何故かやる気を出し始めているので、いずれ何とかなるかもしれませんね。ヴェルテ抜きで。
実際にAmazonで直販できるようになりましたね。やった。