「どんなときもWiFi」、終わるのは客のモラルのせいなの?

冬のGレコ以来ひさしぶりの映画館で見た「人体のサバイバル!/がんばれいわ!!ロボコン」良かったですね。凄かったですね。このタイトルは映画公式サイトのtitle要素から引用しましたが、ではタイトルに載っていないスプリンパンとは一体なんだったのか。その5分の映画を説明するには紙面が足りないので君の目で確かめてほしい。上映は終わるが‥‥。

たまたま目に入ったEngadget Japaneseの記事がどうしても気になったので感想文を書きます。小寺氏は個人的に信頼しているライターなんですが、これはちょっとどうかなと思ったので。

japanese.engadget.com

ようするに「どんなときもWiFi」というWi-Fiルータレンタルサービスが事実上畳まれちゃうねという話で、終了の経緯などは概ね記事の通りなので割愛します。

気になったのは、

現在公式サイトに掲載されている資料によれば、「想定を遥に上回るテラを超えるお客様もおり、結果上位5%のお客様で総容量の20%を占める状態」(原文ママ)とあり、こうしたサービスに典型的な「どエラいヤツに見つかっちゃった」パターンであることがわかります。加えて行政指導の内容を踏まえ、「無制限」の看板を下ろさざるを得ないという流れです。

(中略)

やはり無制限がいいという方には他の事業者をご紹介したいところではありますが、「どんなときもWi-Fi」の行き詰まりを見るに、ご紹介したとたんテラ利用勢に見つかり、サービスが潰れてしまいかねません。

(中略)

5Gが主流の時代になったらまた事情が違ってくるかもしれませんが、4Gにおいて「井戸が干上がるまで水をくみ出す5%」と私たち「自分が飲める分だけで十分」勢とのあいだで我慢できる程度の公平感を得るには、どこかに上限を設定するしかなさそうです。そもそもコロナ禍でモバイルもままならない生活になった今、「無制限」パーティは終わった、という事でしょう。

このあたりの論調で。

どこかに上限を設定するしかなさそうです。

↑ ここは同意なんだけど、

「井戸が干上がるまで水をくみ出す5%」と私たち「自分が飲める分だけで十分」勢とのあいだ

今回ばかりは*1そういうことではなくない? 公平とか不公平とか言うなら、そもそも不可能かつ不当な廉売を決行した奴がどうしたって駄目じゃない? トラフィックを浪費しているとされる上位5%のユーザーとやらをちょっと悪者にし過ぎではないですかね。


どんなときもWiFi無制限プランの終了発表を検討してみたときに、

f:id:appalerm:20200830024320p:plain

  1. 現時点でキャリアからの特例的な契約がない限り、本当の意味での誰に対してもデータ容量無制限での利用は不可能
  2. クラウドSIMシステムはデータ容量無制限を提供するものではなく場所とキャリアに縛られない通信環境を提供する技術である
  3. クラウドSIMシステムで、無制限的な状態を提供するためには、精緻な運用とリスクがある
  4. 無制限でサービス提供をしていくと、想定を遥に上回るテラを超えるお客様もおり、結果上位5%のお客様で総容量の20%を占める状態となり、事業の採算上サービスの継続が困難
  5. 精緻な運用のためには、お客様の利用量のコントロールも必要となり、急な低速化や細かな制限などをせざるを得なくなり、無制限とは言い難く、お客様に対して誠実ではなくなる

https://donnatokimo-wifi.jp/pdf/alternative-plan.pdf

上位5%のユーザーのせいにしてISPに同情する人はtwitterでもちらほら見ましたが、その手の擁護は上位5%のユーザーさえ居なければトラフィックをコントロールしなくても無制限SIMが提供できたかもという意図でしょうか。あるいはしっかりコントロールして無制限に運用できていたかもしれない?

無理では?

www.iij.ad.jp

IIJことインターネットイニシアティブが自社発行の冊子Internet Infrastructure Reviewで利用統計を報告してくださっているので参考にしてみましょう。2019年9月号にある現時点で直近のブロードバンドトラフィックレポートです。

利用者間のトラフィック使用量の偏りを見ると、使用量には大きな偏りがあり、結果として全体は一部利用者のトラフィックで占められています。例えば、ブロードバンド上位10%の利用者がOUTの52%、INの82%を占めています。更に、上位1%の利用者がOUTの17%、INの58%を占めています。ここ数年のヘビーユーザ割合の減少に伴い、わずかながら偏りは減ってきています。モバイルでは、上位10%の利用者がOUTの43%、INの47%を、上位1%の利用者がOUTの12%、INの18%を占めています。対象を個人利用者のみにしたことで、昨年までのレポートより偏りが少なくなっています。

1. 定期観測レポート ブロードバンドトラフィックレポート −トラフィック量は緩やかな伸びが継続− | Internet Infrastructure Review(IIR)Vol.44 | IIJの技術 | インターネットイニシアティブ(IIJ)

固定回線では上位1%のユーザーが下り17%および上り58%のトラフィックを消費、制限を設けているモバイル回線でもやはり1%のユーザーが下り12%および上り18%の通信量を占めるという。5%ならもうすこし広くなるでしょう。むしろどんなときもWiFiのヘビーユーザーは生ぬるかった可能性まであるのでは?*2

「上位5%のユーザー=無制限サービス特有の、通信に著しい影響を与える異常者」という図式がまず無理筋で、この程度の傾斜はどこにも当たり前に発生するように読めます。5%対20%くらいで「想定を遥に上回る」と言うならば、ユーザー全体の通信量が満遍なく多かったか、全体の見通しがとんでもなく甘かったか、サービスを畳む言い訳にしているかではないでしょうか。あるいはその全部か。

ISPの言い訳ばなしにまんまと乗ってしまって‥‥というより、「MVNOで無制限は無理、クラウドSIMでは一層無理」という最大の結論を補強するように存在する4番「採算が合わない」を強調して、「殺到する特殊ユーザーに殺される運命にある無制限サービス」のような論調に持っていくのはいささか強引ではないかと思いました。いや「人が多いと潰れる」というレベルの大まかな話にしたら正しいけどさ‥‥。


もうひとつあります。

そもそもテラ単位使うならモバイルルータじゃないだろ常考、という思いはあります。

記事中にある「テラバイト単位の通信をするなら固定回線を引け」という主旨はまあそうだろうというか、個人的には家庭のインターネットにモバイルネットワークを使うなくらいに思ってはいます(Softbank Airとかも可能な限り使わない方がいい)が、それは一旦置いといて。

japanese.engadget.com

これは同じライター氏が去年の末にどんなときもWiFiを短期的な固定回線の代替として使っているとして、スマートフォンだけでなくPC等を接続していると称揚した記事です。月20GBや30GBでは、あるいは3日で10GBでは足りない(小一時間で10GB消費することもあるとか)という‥‥明言はされませんが、月100GBあたりが安心のための最低ラインかな、という風に読めます。

もっと言えば、動画ストリーミングやクラウドを経由した端末間ファイル転送を頻繁にしていれば、1日平均で10GB(30日なら300GBだ)くらいは扱うこともあるかもしれない。

BackblazeやOneDrive、Google DriveDropboxなどからクラウドバックアップ丸ごとの復元をするような用途があれば、実際テラバイト単位のファイル群をドカンと落とさざるを得ないかもしれない。無制限で固定回線代わりに使う想定があれば、それを悪いとは言えないでしょう(だから「思い」に留めているのは分かるが‥‥)。

私だってこれを読んでいる人だって誰だって、固定回線同様の使い方をする限りは、いつ止むを得ず数百GBあるいはTB単位の通信をするか分からなくはないですか。私は使っていませんが、無制限SIMというものを契約する人はそのどこにでもあるかもしれない当たり前の "巨大" な通信のために安心を買っていたのではないか。月間でテラバイト単位の通信を殊更珍妙で悪質かのように扱うのは、だからちょっとおかしな話で、ISPの釈明にせよEngadgetの追従記事にせよ、若干誘導めいていないかと感じます。

言っちゃあなんですが、当事者意識が薄い気もするんですよ。仮に個人々々による輻輳がどんなときもWiFiを殺したとしたら、氏を含む固定回線的ユーザーの集合が輻輳を後押ししたか、あるいは「固定回線的に使えるぞ」というリコメンドがヘビーユーザーを呼び寄せた可能性はないのかと。まあ先に書いたように個人々々の問題ではないのですが。

こうしたサービスに典型的な「どエラいヤツに見つかっちゃった」パターンであることがわかります。

更に野暮を言うなら、MVNO事業において利用者の拡大に設備投資が追いつかないことが多いのはとっくに分かっている(MVNOは遅いのではなく、遅くなるものだ)くせに、トラフィック総量の少ないうちに飛びついて「MVNOでも快適! 今すぐ契約しろ!」と煽り倒すメディアもひどく典型的ですね。最近は見なくなりましたけど。


冒頭に挙げた文をもう一度引用してまとめましょう。

5Gが主流の時代になったらまた事情が違ってくるかもしれませんが、4Gにおいて「井戸が干上がるまで水をくみ出す5%」と私たち「自分が飲める分だけで十分」勢とのあいだで我慢できる程度の公平感を得るには、どこかに上限を設定するしかなさそうです。そもそもコロナ禍でモバイルもままならない生活になった今、「無制限」パーティは終わった、という事でしょう。

少なくともどんなときもWiFiに限った話をすれば、ユーザーあたりの通信量ではなくISPとしての通信量プールを遅かれ早かれ制御し切れずに無制限プランを潰すのが既定路線だった、というのが、上の報告書と総務省による行政指導に対する再発防止措置報告に書かれたことだと思います。

「無制限」パーティは、クラウドSIMを売り込んだ代理店と、口車に乗った零細事業者による虚業として始まりました。そしてクラウドSIMは無制限を提供する仕組みではないという当然のボタンの掛け違いと積み上がった運用の瑕疵によって終わるべくして終わります。まあ直接的にはソフトバンクの契約変更のせいなんだけど(やっぱり客のせいではないのでは?)。

そのような中で客のモラルに線など引いて、自分の使う通信量については自分が使う分だけだから良し、線を超える通信はやべーやつの所業だから悪し‥‥なんて都合のいいことを、少なくとも業者擁護の文脈で言うもんじゃないと思うんですよ。もし今回のことが不公平によって発生したと信じるなら、責はISPにあるものと思います。今回は。

常識を振りかざして殴りに行くならユーザーより先にISPになるようなところで、何をつまらない忖度をしているのか。「テラ利用勢」の「どエラいヤツ」という掴みどころのないロールモデルで利用者を切断して魔女狩りじみた当てこすりをするのは、言ってしまえばサービスを乗り換えさせられた八つ当たりみたいに見えてしまうじゃないですか。まして紹介記事まで書いた人が(書いたからこそかもしれないが)‥‥。


‥‥ということを思ったのですが、サービスを乗り換えさせられた当事者に対して心ないことを長々と書きすぎました。以上です。

*1:OneDrive無制限プランやAmazon Cloud Drive Unlimitedの終了については個人的に思うところがある、後者は使っていたので‥‥。

*2:無制限と言いながら実は帯域制限が掛かっていたらしいので、ヘビーに使い切ろうとしても不可能だったのかも知れませんが。