Engadget日本版の終了は今さら残念でもない

去年書き損ねてましたが『Hades』良かったですね、SteamとXbox個別に100時間以上やったり熱度32を取ったりするくらい良かった。ローグライクには自機の持ち越せる成長・持ち越せない成長・そしてプレイヤー自身の成長、3要素の総和で高いハードルを跳び越させるデザインが多く(『Into the Breach』や『Dead Cells』もそう)、Hadesもそのクチですが、本作の長大なリプレイ性は、神族の悠久の時間感覚とミクロな人間関係の反復(神だが)とを結びつける物語上の「かすがい」のようでもあります。

今日はこんなタイトルのわりに先週に少し関連した話です。

eps-r.hatenablog.com

  • 日本のガジェット系クラウドファンディングは、開発・OEM・ODM・輸入の区別を曖昧にしがち
  • プロジェクトオーナーには輸入商が多く、とりわけアジア系の怪しい業者や個人事業主に近い小規模業者が居る(しかも最近は情報保護を名目に住所や事業者名がプラットフォーム側で隠されていて見分けづらい)
  • 事と次第によってはAliExpressの方が安くて早くて手厚いまである

前回はこのような話を特にMakuakeの事例を挙げて説明してきたわけですが、そこへ行くと面白くないどころか有害ですらあったのは先日終了したEngadget Japaneseですかね。

日本のIT系メディア史の中でも一定以上の存在感を持つ、歴史の長いサイトがEndagdet日本版ですが、長い運営のなか体制と共にライティングの質と方向性も度々変化を続けていました。私も長年愛読していましたが「Engadgetがずいぶんつまらない事をしてるね」という話は編集長交代前も含めて何回かしており、「セキュリティ月間中にセキュリティをゆるめる記事を載せるな」とか「UPQのアクロバティックな擁護をするのが『消費者向けメディア』のやることか」とか「『どんなときもWiFi』の無制限プランが終わるのは月にTB単位で通信する客のせいじゃないよ」などと、やいのいやいのと迷惑なことをわざわざblogに書いていました。

製品の瑕疵やメーカーの動向を四六時中叩き続けるのも、逆にメーカーに気を使いすぎて機関誌や広告塔になるのにも、価値はあるのでしょうが(そして私自身は大概前者寄りですが)、Engadgetにはそれら偏りすぎた位置には居て欲しくなかった、というのが終わってみての正直なところです。

前から残念だったEngadget日本版

ツタヤことCCC系列の会社によるGREEN FUNDINGというクラウドファンディングのプラットフォームがありまして、2019年にはEngadget日本版との提携を打ち出していました。

store.tsite.jp

これは当時のGREEN FUNDINGのプロジェクトオーナー向け紹介ページスクリーンショットで……ガジェット系クラウドファンディング全て掲載とありますね。Engadget側にもPR表記が「コラボ」名目で一応為されていてステマではなかったにしてもまあまあ険しい話で、末期のEngadget日本版では3年近く、毎日のように微妙に怪しい日本語のランディングページがせっせと転載されていきました。

建前としてはさまざまなガジェットの間口を拡げるというものでしょうが……つまりはこういうこと、「大手メディアに紹介されているのだから安心できるに違いない」という読者の心理に乗っかった名前のロンダリングであって、私にはあまり良くない意味での "価値創造" に見えます。

日本のクラウドファンディングの御多分に漏れず怪しい業者・怪しい言葉遣い・怪しい商品だらけのGREEN FUNDINGプロジェクトの品質をEngadgetは担保しませんしGREEN FUNDING側がまともに担保している様子もありません。上海問屋やグリーンハウスあたりから出ていたら見向きもされないような「紫外線照射キーホルダー」や「次亜塩素酸水生成機(実際は次亜塩素酸ナトリウム水溶液生成機)」などの胡散臭い商品までが漏らさず掲載され紙面を賑やかすさまは登場人物全員による信用のロンダリングどころか叩き売りに他ならず、品位や治安のある行いとは思えませんでした。

生き残り戦略というよりは意志のことだったと思う

www.itmedia.co.jp

媒体終了に際しての編集長の談話が3回にわたってITmediaで公開されていました。

矢崎 だから、何かもっと、身近な人を含めて、小さなコンピュータ、身近なコンピュータとかね、インターネットが人生をもっとリラックスした、心地よくアシストしてくれる存在になるような仕事をしたいんですよ、僕。

 それは文教なのか、あるいはものづくりなのか、分からないですけど。より良い世の中になるため、みたいな、そういう工夫がしたい。

 ただ、自分の中のモチベーションとしては、キャリアの後半にけっこうものづくりに携わってきて、そこがやっぱりいちばんテンションが上がるし、わくわくする。

 ものづくりも表現だと思うんだよね。

 表現の一環としては、ものづくりの企画をサポートするとか、助言するみたいな形で、最前線で小さいコンピュータの発展を見続けてきた私だからできること、提案できることもあるのかな、と思いながら。

Engadget日本版はなぜ終わったのか、最後の編集長・矢崎飛鳥氏に聞く(第3回) 編集スタッフの「次のフェーズ」はどうなるのか(2/4 ページ) - ITmedia NEWS

「ものづくり」とその応援をしてきたと強調する編集長の、そのポリシーから発射されてきたのがUPQ事件であり、見境のないクラウドファンディングの記事広告だったということでしょうか。これら広報活動と、ものづくりへのモチベーションの交わる点が編集長入魂のプロデュース『Lifebook UH Keyboard』ならば、「バッタ屋の広告を作り続けてきたおかげで自分たちの『ものづくり』ができました」と誇っているようにすら見える構図です(いや、そんなバーターではないんだろうけど……)。それは製品のプロデューサーやサポーターとしてはともかく情報誌として誇れる仕事だったとは、失礼ですが私はあまり思いません。


Ittousai氏の個人blogの延長から媒体として大きくスケールして一本立ちするため、他のメディアにない独自路線を作るため、無差別の記事広告でもやらなければいけなかったのかもいけませんが(その甲斐あってか収益自体は特段不採算ではなかったとされている)、とはいえ少なくとも全く望まぬことをやっていたわけではないだろうし、あるいは編集部の文化として良かれと思ってやっていたようには、やはり見えていました。

それはどういうことかというと、ものづくりに貢献したい意志があればこそEngadget電子工作部出身のUPQへの過剰な思い入れを通せたし、新しい価値を作り出したい意志があればこそジャンク業者のジャンク商品をクラウドファンディング紹介と言って押し通せたのだろうということです。彼らからしてみればそれらの行為は価値創造というメディアの役割を果たすものであって、肝心の情報がウソ・大げさ・紛らわしいものかどうか、消費者の体験が不合理・不利益かどうかは、後で消費者自身が決めればいい……という、よく言えばある意味高い意識、悪く言えば責任放棄から発せられたのではないかと外野からは見えます。

バッタ屋の広告媒体になりおおせていた理由が、仮に上のような「ものづくりと価値創造」への誇りからだったとしても、あるいはだからこそ、私個人からの評価としては「情弱向けの餌場をこさえるのはやめろ」になるので、Engadget日本版は終わってくれて良かった、編集長が御本人の志向をより活かせるであろうものづくりの現場に行けて良かったと本心から思うのでした。

後継とされるTechnoEdgeがどうなるのか、広告コンサル企業イードの出資を受ける中で「紙ヤスリ同梱の有無に注目が集まる アップル iPad mini の実機写真ギャラリーをお届けします」などという10年前のような陰険なユーモアがどこまで許されるのかに注目が集まります(私はこの書き出しが大好物ですが、そういうことをやってほしいわけではない……)。

お返事(2022-06-07)

UPQ時代は編集長が違うので批判先が雑

otsune 2022/06/06 00:24

https://b.hatena.ne.jp/entry/4720582916385216962/comment/otsune

矢崎編集長の就任は2017年1月1日付UPQディスプレイの擁護記事は2017年4月25日付です。UPQの成立でなくインシデントの取り上げ方を問題視しているのだから、事実関係は前後していません。

もう少し補足すると「矢崎編集長になってからEngadgetの雰囲気が変わった」といった犯人捜しのようには書いていません(むしろ雰囲気が変わったから矢崎氏を招いたんじゃないですかね)。編集長に象徴されるメディアの振る舞いを批判することと、編集長個人を批判すること、どちらかでいえば前者の話のつもりでした。