英語はできないがreWASDのローカライズをした

『ELDEN RING』良かったですね。RPGを終盤で投げ出す病が発動してまだエンディングを見てないのですが良かった。フロム・ソフトウェアのゲームは下手すれば10年以上ご無沙汰だったのですが、大量の行間を敢えて残すストーリー、多岐に渡るパラメータでプレイヤーを威嚇してくるシステム、右手と左手を分ける直感的なようでそうでもないような気もする操作系、そして重量過多。なんだか戦闘メカを動かしている気分になる瞬間がありました。

エルデンリングはともかく、今年の2月中旬から3月末くらいにかけてはPC入力機器の再マッピングソフトreWASDの日本語リソースを作っていたので、その報告です。アフィリエイト記事ではないのでreWASDが売れても私に何か利益が入ったりはしません。

reWASDとは

www.rewasd.com

実は昔の記事で軽く説明していたりするのですが、reWASDとはゲームパッドやマウスやキーボードの入力を相互変換できるWindows用ソフトウェアです。一言でいえばJoyToKeyに近いソフトで、ゲームパッドのボタンの入れ替えや再割り当て、パッド入力をOSに通知しない(ミュート)、XInputとDirectInputの変換など様々な機能を持ちます。

有料ソフトで基本ライセンスが7ドル、各追加機能も7ドルずつ、全部入りパックは割引が付いて26ドルくらいだったはずですが、11月末から12月頭まではセールで15.99ドルになっています。

経緯

長年愛用している割に日本語ローカライズが一向に出ず、調べてみるとどうも「計画中」から具体的な進捗がなく、そして立候補フォームでボランティアを募っているようだったので、誰もやってないからやることにしました(採用されるとフルセットバンドルを1ライセンス貰えるので、完全な無給ではない)。

今は立候補フォームの下に私の筆名(稲葉/epser)が載っています。

応募の際に審査や契約事項とかは特になく、また翻訳にあたってもUIの破綻やはみ出しなど手続き的なQA以外の、表現上の指摘は受けたことがないので、

It has become a good tradition when our amazing users localize our apps. Only those who use and play with reWASD are good enough to make the best translation, right?
(素晴らしいユーザーの皆様がローカライズをしてくださることは、我われのアプリの良い伝統になっています。reWASDをよく使い、よく遊ぶユーザーだけが最高の翻訳を作れると思いませんか。)

reWASD localization

なんというか本当にこの精神で動いてますね……まあ監訳者をつけるくらいならプロに翻訳してもらった方が早いのだから、そういうものか。

Web上の編集ツールへのアクセスを案内された後は1500行ほどの文字列を単語・短文・長文の順で1ヶ月くらいかけて書いたり直したりを繰り返し、とりあえず出揃った報告をしたら3月末のVer 6.1.1に収録されました。

その後はバージョンアップに対応したり、違和感のある個所を直したりして現在に至ります。

表記ルールのメモ

こういうのを書いておけば私がリタイアした後も誰かやるんじゃないかという期待で残しておきます。

既存のローカライズポリシーを探す

書き始めてからすぐに「どういう着地点であれ、UIにはポリシーが無いと途端にダサくなる」という恐怖が沸いてきて、では我我は何を以て「ポリシーが揃っている」と感じるのか? 世の中の製品がどういう観点で統一を図っているのか知るために翻訳ガイドラインを探した。何も考えないままだと、意識の及ばない部分の不統一がダサさを引き起こしたり、最悪の場合は実際の不便にも繋がるかもしれない。

結局大いに参考になったのはWordPressの翻訳スタイルガイドで、特に記号やスペースの入れ方は全面的に参考にした。ただし機械的処理(grepの自動適用など)は特にせず「気になったら直す」「迷ったら従う」くらいの心持ちにしている。手間をかけ過ぎたくないのもあるが、単にデベロッパー指定のWeb編集ツールにインポート・エクスポートがなくて面倒だったのが大きい。

Microsoftのローカリゼーションスタイルガイドの存在は一通り終わってから知った。先に知っていればこちらを優先したかもしれない。

半角全角・記号・スペース

WordPress合わせで以下のようにしている。その割には前述のとおり機械的でないのでたぶん徹底できていない。

  • 句読点はカンマピリオドでなくテンマル(、。)
  • いわゆる半角英数字と記号類は原則半角。スペースも全て半角
  • 句読点を除き、アルファベットと全角文字の境界にはスペースを入れる(例: リマップやシフトの変更時に DualShock 4 の LED を光らせる)
  • 数字・記号と全角文字の境界にはスペースを入れない(例: 8方向入力を使用する)
  • 括弧の前後にはスペースを入れる。内側にはスペースを入れない(例: このボタンにはメインのコンフィグ (シフト0) から引き続きマッピングを追加できます。)
  • 文末のピリオド(日本語の句点)の有無は原文に合わせる

文章・文体

DeepLの支援を受けまくりつつ原文と比較して、日本語として不自然なく読めるもの、かつウソをついてないものを目指すだけは目指した(簡潔な文が多かったのと、使用箇所の特定が困難というほどではなかったので挫折せずに済んだ)。言語化できる程度の指針としては下記のようになる。

  • 不要な主語を省く(「あなたは○○できます」→「〇〇できます」)
  • ユーザーの行動に直接絡まない説明文などは敬体「〜ます」「〜ません」
  • チェックボックスやボタンなどユーザーの意志で起こす行動は常体「〜する」「〜しない」

趣味というほどのものでもないが、文頭の "Note that ~" と "Please note that ~" は一律「注記: ~」に揃え、「注記: reWASD のアクティベーションにはインターネット接続が必要です(Note that Internet connection is required for reWASD activation.)」のようにしている。今後 "Attention: " とか出てきたら区別できなくなりそう。

用語

他より感覚的なところが強い。

  • 一般的な訳の定まっているソフトウェア用語は当然ながら可能な限り合わせる。Save・Apply→保存・適用など
  • 固有名詞は特段の事情が無ければ原語に合わせる。RazerはRazer、Nintendoは任天堂Nintendo Switch Onlineは日本語版公式に合わせてNintendo Switch Onlineなど。
  • 「コントローラー」など語尾の音引き表記はMicrosoftと同様に現行のJISガイドラインに準拠(気分で例外を作ったかもしれない。あまり自信がない)
  • 「バックグラウンド エージェント」など単語間のスペースはかなり気分に左右され、安定していない(Microsoftは元々にスペース入ってたらそれに従う派)。この辺は一人でも対訳表や機械的置換、そして文字数ベースのしっかりしたガイドラインが必要だと感じたけど結局作ってない。

カタカナ語の使い分けについて。

日本語の方が通りが良さそうなところ、日本語にするしかなさそうなところはそのようにしている。長押し、2回押し、3回押し、連射*1、「離すまでホールド(Hold until release)」「一度に実行(Execute at once)」など(「ホールド」は他の訳との兼ね合いでカタカナ)。

一方でreWASD特有の用語と判断したもの、アクティベーターやマッピング、ミュートなどの言葉は発動条件・割り当て・抑制などにはせず、原則としてカタカナに引き写した。

「アクティベーター」を「Activator」と英語表記にしないのは日本語文章としての自然さを優先したいからだ。その一方で「発動条件」のように訳語にしないのは、造語らしくなればなるほどドキュメント(翻訳予定なし)を読むのが大変になる、という考え方による。「アクティベーター」はやや非直感的な単語ではあるが、UI内に頻出するので慣れるのは早いだろうという見込みもある。

このように訳語にする・しないを検討した結果として、アクティベーターの種類が「1回押し」「2回押し」「3回押し」「長押し」「押し始め」に続いて「リリース」になってしまうのは、それはそれで不統一かもしれない。Releaseを「終了」や「離し」にするのも、他をシングル・ダブル・トリプル・ロング・スタートにするのもそれはそれで分かりづらい気がしたので……。

おまけ。サブカルチャーにはうかつに手を出さない方がいいと思ったので、トレイアイコンの色プリセットは英語のまま。

公開後と感想

えらそうに書いているけど変な訳はまだあります……(今後の反映でいずれ「ファイル位置を開く」→「ファイルの場所を開く」、「複製先...」→「名前を付けて複製」になります)。

前からたまに参加しているDrivePoolでは当時の自分の能力や機械翻訳の性能の違いもさることながら、編集ツールの機能不足であったり逆に人が少なすぎて機能しない投票制などオーバーキルな箇所にだいぶ苦しんだので、今回のツールが簡易版スプレッドシートといったイメージで軽快に使えたのはよかったですね。逆に複数人居たら破綻しそうな感じもあったが……。

リリース後は相当ビクビクしながらtwitterや5chの評判をチェックしていて、「出来が悪い」「わけがわからない」みたいなことはほとんど言われてなかったので、3ヶ月くらいエゴサを繰り返してようやく安心できるようになってきました。まあ元々アクティブな日本語ユーザーの多くないソフトだと思いますが……。

他人のソフトウェアへの関わりとしては経験上かなり大きい感じになりましたが、少なくとも自分で使う分にはだいぶ楽になって満足しています。ほかの利用者のかたにとっては不足のこともあるでしょうから、直接的にでも間接的にでも指摘があると直ったりすると思います。

余談

twitterでreWASDのことを検索しているとnoteの記事やマガジンを買わせようとする業者があとからあとから出てきて圧倒されるのですごい。同じソフトの利用者なのに全然知らない世界。

私自身は競技性ゲームで勝つためのチートツールではなく前述の通りWindowsのマウスカーソルを動かすツールだと思ってreWASDを使っているし、

一応ソフト上でも「競技性のあるゲームでこんなの使ってたらBANされても文句言えねえぞ」って警告が出るのと、

そのうえでVALORANTやApexとかのコンフィグが欲しければ公式コミュニティに無料で大量にあるよと開発元も言っているので、特に対戦要素のあるネットゲームでreWASDを使うことや、コンフィグを知らない個人から買うことについて開発元と当blogは推奨していませんよ、という余談でした。

*1:課金フィーチャーにRapid Fire機能があるから固有名詞扱いで「ラピッドファイア」でもよかったかもしれない。