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不思議の謎を解かねばならぬ

遊戯王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS(2016年)雑感

「コンセプトの時点ですげえ、勝ったも同然だ」とあらすじの触りを知った当初から失礼なくらい褒めちぎっていたくせに、公開から4ヶ月も経った8月頃に見に行きました。遅れて上映してくれる映画館があって本当に助かった。

以下には話の筋と結末に関するネタバレを含みます。


内なる神といいますか、救いの在処を賭けて闘う話だったように思います。

この映画の武藤遊戯はアテムと別れたのち、ゲームデザイナー(※非電源)志望の高校生として夢に向かって進んでいます。かつて神性に触れ、それが去ったと知っている遊戯は、友の記憶を大切に抱え、希望ある現し世を生きる人間です。

海馬瀬人はうなるほどの財力を以て記憶の中のアテムをソリッドビジョン化する装置を作ったうえで「俺の記憶を上回らなければあの男ではない!!」のようなこと(うろ覚え)を言い出し、どうにも満たされません*1。地の底にあっては千年パズルを掘り返し、天の彼方にあっては千年パズルを組み立て、ひたすらアテムを探し、怒り、叫び続ける姿は、物質的に満たされている人がしかし救いを求めて彷徨っているように映ります。

藍神(アイガミ)という新キャラクターの率いる勢力プラナは現世を生きていない少年たちです。これは文字通りの意味であり、ストリートチルドレンであった彼らは未知の千年アイテムによって物理的肉体から解放されているので物質的な幸不幸とは無縁の存在です。そしていずれはその精神さえも、救いのない現世より解放されプラナだけが行ける高次の世界に昇華(アセンション)するものと信じており、その妨げとなる*2アテムを完全に封じようとします。しかしまったく浮世離れした連中でもなく、師であり育ての親であるシャーディーへの情が残っていることはアセンションの行方に影を落とします。


それぞれに異なる救いの形を持つ登場人物のうち、対立が明らかなのは海馬と藍神です。生きる目的をもうほとんど「アテムとの決闘」に定めてしまった海馬に対し、藍神らプラナの目的は「アテムの封印を守りいずれ来るアセンションを待つ」というものですから、これは墓荒らしと墓守の戦争です。目的と手段と信仰すべてが完全に干渉している彼らの戦いは、いきおい熾烈になっていきます。

一方で、エジプトやファラオと関わりのない人生へと舵を切った遊戯には闘う直接の理由がありません。「アテムの器である以上は危険人物」とプラナによって日常を脅かされたとき、武藤遊戯は初めて決闘のために立ち上がります。

  1. 海馬が墓を掘り返す
  2. プラナが海馬を止めるために動き、ついでに遊戯にちょっかいを出す
  3. 遊戯が立ち上がる

このような連鎖が起こっており、物語の始点も含めて海馬に対し非常に多くのフォーカスが当たっています。言い換えるとだいたい海馬のせいという話にもなりますが‥‥。


物語を強力に駆動するのは海馬ですが、その動機にアテムが居る以上やはり本編の中心に居なければならないのは武藤遊戯でした。器、うつわ、王のUTSUWAと罵倒され、新デュエルディスクと闇のゲームで魂(バー)を消耗*3しながらも闘い続ける遊戯のもとに新たな救いが訪れる一方で、海馬の不断の努力は報われないまま物語は一旦幕を閉じます。

しかし、これは海馬の無茶から始まった物語です。対抗したプラナは次元の境界をゆがめたことで結果的に遊戯に機会をもたらし、遊戯は現の世を生きる喜びと大切さをプラナに教えました。そして海馬瀬人はプラナたちとの闘いからさえも新たなヒントを見つけ出し(海馬から藍神へ、藍神から遊戯へと起こった連鎖反応は、フィードバックとして遊戯から藍神へ、藍神から海馬へ戻ってきたと言えるかもしれません)、次元を超え、見果てぬ先まで続く闘いの道(ロード)を開拓し続ける強さを我われに示してくれます。

どんなに身勝手で横暴でも、その行動が救いを求めて焦り暴れた結果だったとしても(あるいは、だからこそ)、やはり海馬社長はスゴくてカッコいいですね。老人傷害と飛び降り未遂の件は忘れろ。


そのほか

  • 映画の流れには少し寓意を感じるといいますか、つまり初代遊戯王の続編を見たい我われ(海馬)が諦めずに墓を掘っていると、和希(遊戯)が数年ぶりに話を作る気になり1年もかけて*4アテムを呼んでくれるんだ、という見方もできるような。冒頭に書いた「コンセプトの時点で勝ったも同然と思っている」とはそのような理由からです。
  • 集合的無意識をハックしながら理屈をくっちゃべるプラナ勢力の攻撃は遊戯王としてはちょっと異質で新鮮だったように思います。プラナはエジプトから来た割にユングだのアセンションだのと妙にニューエイジっぽいところがあって、あれはシャーディーが吹き込んだのか、藍神のセンスなのか‥‥。

*1:この映画は原作漫画版の続編のため、海馬はアテムの退場を見届けていない。

*2:ファラオ(アテム)が復活するとアセンションは確実に失敗すると言われている。

*3:映画に登場する新デュエルディスクではモンスターの性能を発揮するために精神力を込める必要がある。込めてもライフポイントは減らない。

*4:原作ファンブックによれば脚本作業に1年近くかかっているらしい。