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GPD WIN MAX 2 雑感と雑談

前年末から1月あたりにかけてはSlay the Spireブームが再燃してアセンションが4から17まで上がって勝てなくなったり(サイレント)、6発表記念に本体ごと取り寄せたアーマードコアシリーズを2まで進めたりと、気付けばろくに新作をやらない日々です。

それはともかく、今回は前に予告した異常ノートPCのGPD WIN MAX 2の感想として、WIN MAX(2020)と比べての所感、「モバイルゲーミングPC」に思うこと、UMPCへの雑感あたりなどをもたもたと書いていきます。

結論から言えば多用途ノートPCにゲームパッドまで統合した物体。重量と厚さに文句が無ければ使い勝手は良いといった感じでしょうか。

前世代とのざっくりとした比較

GPD WIN MAXの2020年版も持っているので、今回ももっぱらそちらとの比較をしていきます。前に書いたGPD WIN 2とMAXとの比較は以下。

eps-r.hatenablog.com

今回はトータルの良し悪しでいえば劇的に向上しており、少なくともPCとして使うぶんにはかなり不満の少ないマシンになりました。

  • よい、よくなった
    • ゲーミング性能の向上
    • ディスプレイのベゼルが狭くなり、解像度が4倍になった
    • キーボードが形状・組付け共にかなり良くなった
    • アナログトリガ
    • 指紋認証
  • よくない、よくなってない
    • スピーカーの改善はほとんどない、振動も良くない
    • キーボードの同時押し限界が低くなった
    • MAX(2020)と同様、高負荷時のバッテリーライフは1%/分程度
    • 更に大きく重くなった
    • 変な位置のSELECTボタン
    • 配置と動作にクセのある背面ボタン
    • あまり期待の持てないLTE接続(記事中では詳述しませんが、OS・ハードウェア共に安定性は高くないように思います。スループットも接続性もあまり良くない)

悪いところもだいぶ挙げていますが、まあ使い倒しつつあるからこそ気になっている個所といいますか……。

ハード・ソフト各要素のこと

外形: 良くも悪くもデカい

スクリーンサイズにして10.1インチともなると最早ウルトラモバイルPCでもなんでもなく、ちょっと前まであったLet's Note RZあたりに近いサイズになってきます。

外形寸法としてはGPD WIN MAX 2が227x160x23mm、RZ8が250x180x19.5mmで、厚い代わりに縦横に指1本分くらいずつ面積が小さいです(重さはWIN MAX 2の1kgに対してRZ8が750gと相当違うけど)。

comparesizes.com

RZやMacbook Pro(13インチ)あたりと並べると大体このくらい違う。

WIN MAX(2020)と比べて大きい割にはホールド感は良く、手に持ってねじってもミシミシしないのは良いことです。

スクリーン: 単純に大きくて便利

GPD WIN MAX比で大きくなったスクリーンを横2560解像度で扱う分には、PCの作業としてはだいぶ快適です。

所詮は1280x800なので不足する局面も多くあり(設定画面とか)、1920x1200か2560x1440あたりを積んでIntelドライバの等倍スケーリング機能に期待する目もあったんじゃないかと思いますが

GPD WIN MAX 雑感 - eps_r

WIN MAX(2020)の時に書いた通り、ノートPCの使い勝手としては画面解像度はあればあるだけよく(低解像度で3Dゲームを動かせるGPUということは、大体の用途には高解像度で間に合う)、結構な余裕をもって使えるようになりました。

ボーダーレスフルスクリーン時のパフォーマンスを優先してか出荷時は1920x1200解像度に設定されているので、ネイティブの2560x1600に合わせると全体的に絵がはっきりします(ゲームの時は結局落とすことが多いとは思うけど)。

スケーリングは150%だとキツめ、175%が私にはちょうどいいです。OS推奨値は200%。

AfterBurnerやRTSSのような低解像度で固定されてしまい字の小さくなるアプリケーションは、「プロパティ→高DPI設定の変更→高DPIスケール設定の上書き」からスケーリングを「システム」に合わせてやると具合がいいです。


肝心のゲームに関しては、今度こそ回転液晶でなくなったので拡大品質の不調や占有フルスクリーンで困ることはだいぶ減りました(2560x1600は少し変則的なので、フルスクリーンの扱いで相性の悪いタイトルもたまにある)。

ただしパフォーマンスの関係で、実際のゲームに使いがちな解像度は1280x720、1600x900、1920x1080(16:10が使えれば1280x800、1600x1050、1920x1200)あたりが多くなります。このあたりは後述。

スピーカー: 少し無理が減ったが相変わらず音は変

スピーカー開口部は前世代同様に側面にあります。今回は筐体の大型化に伴って手のひらとの干渉は起きにくくなりました。手前側面側の穴はゴロ寝使用中に服や何やらと接することもあるかもしれませんが、よほど窮屈に押さえなければ音の変化は気になるほど無さそう。

音質はWIN MAX無印とよく比べれば僅かに良くなったような気もしますが大差はなく、相変わらず抜け感のないこもった調子で、低音はロクに鳴りません。音楽のベースパートが丸ごと聞こえなくなるまであり、少なくとも私はほとんどのスマートフォンより好みではないです。

ゲームパッド: アナログトリガーはうれしい

トリガーがアナログになって車ゲームなどへのモチベーションが上がりました。配置に関してはSELECTの位置が変(右手親指)なこと以外は言いたいことはありません。

いや、もう一個あった。背面ボタンの位置自体には文句ないけど(文句はないが慣れは要ります。凸凹した場所に置くと暴発する)、押しっぱなしで0.33sec毎に再入力するのは納得行きません。GPD WIN 3でどうだったか知らないけど、押している間はちゃんとホールドしてほしい。

相変わらずマウスモードのアサインは独特ですが、カスタマイズユーティリティが提供されているのでWIN MAX無印よりは困らなさそう。

カスタマイズユーティリティからはその他に振動機能を強・弱・無の3段階から選べるのですが(画面左下)、「無振動」を強くお勧めします。GPD WIN MAX 2の振動はHD振動やデュアルショック的なものとは程遠い、ただ一定の強度で震えるだけの代物なので、DEATH STRANDINGやForza Horizon 5のように路面の状態を窺わせるようなものにはなっていません。デュアルショック(PS2)未満の機能の為に何グラムか取られるのが惜しいくらいです。

私は左スティックがマウスでないと困るほうなので引き続きreWASDに頼っています(背面をF11F12に当ててることも含め、細かい話は別記事でやります)。


触感について。D-Padやボタン類はWIN MAX無印より僅かに遊びが増えてクリスピーになった気がしますが、個体差や経年の差もあるので何ともですね。

アナログスティックにホール効果の部材を採用したとのことで、耐久性への好影響となるかが気になります。手元の個体はキリキリと謎のクリック音が鳴るので「本当にこれで耐久性あるんか……?」という気分ですが、その絡みなのかスティックの触感がちょっと独特で、十字方向の「スジ」が強めに通っていて上下左右方向に誘導されがちです。格ゲーや2Dアクションとの相性は良さそうですが、FPSやTPSには慣れが必要かもしれません。

キーボード: 大きく改善

ディスプレイに並ぶ改善点ですね。WIN MAX 2を現時点での完成版と呼びたい箇所のひとつです。


Indiegogoより)

ファンクションキーには妥協がみられますが、数字キーの高さが他と揃ったことで格段に打ちやすさが増しました。

筐体の大型化に伴い他の記号配置の変則さ・窮屈さもだいぶ解消され、また設計か組付けが良くなったか打鍵時の傾き感やチャタリングも感じにくくなり、文章を打つ際のストレスはかなり軽くなりました。

ただ二点、BIOS・ファームの改善で直るならば直ってほしい箇所として、

  • WIN MAXとキー同時押しの処理が変わり、Ctrl + Win + 左右カーソル(仮想デスクトップ間の移動)が認識されない
  • キーバックライトのデフォルトがオン(弱)なので、消すためにFn+Spaceを2回押さないといけない。前の状態を覚えておくか、でなければ初期状態を変更可能にできないか?

という所はあります。

タッチパッド: 引き続き普通

引き続き2本・3本指ジェスチャーに対応する普通の高精度タッチパッドです。WIN MAX無印に比べて大きくなり使いやすくなってはいますが、「前世代に戻ってみると違いが分かる」くらいの差といいますか。

場所は慣れましょう。

電源: ファンはうるさい

WIN MAXより若干ファン音が小さくなった気もしますが比べてみないと分かりづらい程度で、最大の際はSwitchのTVモードよりうるさいことは覚悟したほうがよいと思います。重いゲーム以外では静音モード(Fn+Shift)でも排熱は追いつくのでそちらを検討してもよさそうです。

バッテリーは通常使用で体感8時間くらいは使えそうですが、ゲームで最大パフォーマンスを出せば1%/分(2時間以内)というピーキーな感じは現代PCらしいというか、WIN MAX(2020)からそのままの印象です。

このあたりの音や熱・バッテリーとの兼ね合いを重視するならば、Windows標準の電源管理でなくTDPを直接指定できる幾つかのツールを見ていくのがいいかもしれません。

付属のMotionAssistantユーティリティは使いにくそうですが……。

github.com

GPD社公式ではMotion Assistantの他にPower Control Panelの再配布もあり、こちらはパッドのショートカットで画面脇の操作パネルを呼び出せたり(パネル自体の操作はほとんどタッチ前提だが……)、プロファイルを指定できたりするので使い勝手は多少マシです。好みで選べばいいと思います。

簡易的にはWindowsの電源設定プロファイルでふんわりと調整できたり、あとは先述の通りShift+Fnでサイレントモードに変えると最大TDPが15Wに制限されます。

簡易的でない方法としてはUEFIから直接TDPを変更することもできます。ロックしてしまうぶんにはこちらでもいいかも。


充電機器がシビアになったという噂を聞きますが、手元の60W程度のチャージャーで使っている分には問題なさそうです。ものによっては給電が断続的になったり、クロックが最低に張り付いたりするらしいですが……。

Anker PowerPort III 2-Portの60Wモードや、Nano II 65Wあたりを実際に使っています。511 Power Bank(20W)はダメだった。


電源の安定感はWIN MAXが2年使っても概ね良好なので、今回もそうだといいな、という印象です。今のところスリープ死とかはない。

処理性能・ゲーミング性能

CPUについては、正直2年経った現在でもCPU面やゲーム以外の用途ではGPD WIN MAX(2020)のi5-1065G7で不便を感じていないので、今回はそれより強いCPUなんだから普通に使うぶんには体感の差はないです。

なので専らGPUとゲームの話しかしません。総合的な性能評価やちゃんとしたベンチマークは識者やメディアを参照してください。

概説

Ryzen 6800U(Radeon 680M)のFP32(単精度浮動小数演算)性能だけを見たとき、他機種とざっくり比べると以下のようになります。

  • ゲーム機と比べるとPS4/Xbox Oneの倍くらい、PS4 Pro/Xbox One Xのちょっと下くらい(タイトルの違いが大きいからグラフに載せてないけど、Nintendo Switch比だと10倍くらい)
  • Geforceの安目のラインと比べるとGTX1050TiとGTX1060の間くらい
  • 過去のGPD WINと比べると
    • GPD WINの20倍くらい
    • WIN 2の10倍くらい
    • WIN MAX(2020)の3倍くらい
    • WIN MAX(2021)やWIN 3の2倍くらい

FLOPSは絶対的なものでは全くなく、機種・タイトル毎の最適化やCPUやメモリ等のハード構成といったほかの変数も多いのですが、まあ目安にはなります。

そうしたざっくりとした感覚でいえば、コンソール向け最適化を差っ引いてもPS4/Xbox One世代のタイトルならば快適に実行できる見込みがある、そしてPS5/Xbox Series S|X世代のタイトルでも前世代機(無印PS4/XB1)程度には動かせそうな性能ということであり、これはソフト資産の面で良い線を突いています。

コンソールでもPS4/Xbox Oneとのいわゆる縦マルチのゲームがいまだに出ている中で、それらをモバイルで遊べるのが、本機やAYA NEO 2(あと若干特性は違うけどSteam Deck)など最近のモバイルゲーミング機のうれしいところと言えます。コンソールとPCの同発タイトルや移植も一般的になってきましたし、あまり重くないインディーゲームの隆盛などもゲームの選択肢を拡げてくれていて、GPD WIN初代や2あたりと比べると性能もラインナップも隔世の感があります。

まあGPD WIN MAX 2の重量感まで行くと、ディスクリートGPUを積んだ1.5kgくらいのゲーミングノートが対抗になり始めて数倍の性能にぶち抜かれていくのですが、そこはそれ……。

付記

4Gamerなどメディアのレビュー記事では標準のTDPを18Wと言っているところもあるようですが(初期出荷か試用機独特の仕様だろうか?)、電源の項の通り手元のUEFI設定を見る限りは持続28W、ブースト32Wになっており、HWINFO読みのCPU Package Powerも25Wとなっていてセットアップ直後のゲーミングパフォーマンスに大きな問題は感じません。

TDPの調整は、標準以上に電力を盛ってパフォーマンスを少しでも稼ぎたい場合や、逆に18Wあたりに落として静粛性やバッテリーライフを稼ぐ(かつ静音モードに頼りたくない)場合にするといいのではと思います。

EARTH DEFENSE FORCE 5

前に撮ってた動画との比較。

共に1280x800・フィルタなしの条件で、WIN MAX(2020)の2倍前後。

Outer Wilds

これも1280x800、グラフィックスオプションを最低設定にして条件を揃えています。

たき火で処理落ちしない!

GPD WIN MAX(2020)では随所で20fps~30fps程度まで落ちていたのが、同設定で50fps以上を維持しています。これなら好みに応じて解像度を上げたりグラフィックスオプションを追ったりしてもよさそうです。

ただ、GPUだけ見た時の単純計算として、WIN MAX(2020)比でGPU性能がざっくり3倍、ネイティブ解像度がきっちり4倍ということで、1280x800でもたついていたゲームを単純に4倍の解像度で回せるのか? という感覚もあります。解像度は横1600とか1920とかにしておいて、あとはグラフィックオプションを少しずつ盛るのが無難な気もしますね。

DEATH STRANDING Director's Cut

1920x1080・標準プリセットのミュール基地(東)。基地の外で30~40fps、内で30fps程度といったところか。

グラフィックメモリ(3GB)の不足で標準設定ではスタッター(数フレーム分の停止)が目立ちます。UEFIからグラフィックメモリを増やす、テクスチャ解像度を下げるなど対策を取ることは前提として、それ以外の設定も下げてフレームレートを追うか、あるいは設定を維持しつつFSRを有効にするなど、これもある程度は好みを反映していけそうな状態です。

DEATH STRANDINGあたりだとWIN MAX(2020)では低設定以外でやる気がしない、一杯々々だった印象なので設定の余地があるのはうれしいですが、言い方を変えれば、PS5/Xbox Series X世代のタイトルに対してはちょっと設定を頑張らないと快適にならなさそう、ということでもあります(余談ですが、Steam Deckの画面解像度が720pなのは、設定に詳しくない人の体験を確保しやすくする意味でも有効そうだなと思いました)。

3DMark TimeSpy

2~3年前の標準的なゲーミングノート(RTX2060)の5割弱くらい。今もってエントリークラスのゲーミングノートと「競れる」とは言えませんが、「比較になる」、というとこまでは来た感があります。

手持ち構成での比較だと、RTX2080の4分の1、WIN MAX(2020)の3倍くらいといったところ。

結論: 君は1kgのノートPCをグワシと掴めるか

中途半端な機種なのは間違いない

GPD WIN MAX無印との比較としてはやはりディスプレイとキーボードの強化が目立ち、前機種の「こうだったら良かった」弱点をおおむね埋めてくれ、ひとまずの完成形と思わせてくれます。

ただ、ノートPCとして上出来になってくるからこそ、主題そのものの半端さも、より明らかになってきます。

GPD WIN MAXシリーズの特徴というのは結局、良くも悪くも大きさと重さです。現代のノートPCとして見たとき10インチクラスの面積はキーボードを含む使い勝手として「小さ過ぎ」と言われ始めるラインにあり、逆にゲーム機として見た場合には明らかに「大き過ぎ・重過ぎ」です。

www.4gamer.net

この辺りは4Gamerにも直球で「中途半端」と指摘されていて、それ自体は全く正しい話ですが、言い換えればほとんどの要素を諦めなかったということです。ミニノートPCにしてはだいぶ素直な配列のキーボードに、ややオーバーなほどのプロセッサ性能とバッテリー容量、そしてカスタマイズ可能な2スティック多ボタンの入力デバイス。どれも刺さる人には刺さるものです。

www.sony.jp

グワシと掴んだ時の不思議な機動性を獲得しているのも見逃せないところです。さすがに上記のVAIO U PCG-U1より大きいので親指でキーボードを扱うまでは行きませんが、ゴロ寝しながらのWeb閲覧くらいなら易々こなせます(タブレットを使えよと言われたらそれまでではある)。

「PCゲーム機」の割合

GPD WIN MAX 2は、アフターMacbook AirアフターUltrabookの正義である「薄い・大きい・軽い」に逆行する、「厚い・小さい・重い」コンピュータです。しかし「面積の小ささ」を評価軸に含めた時、性能その他を含めたトータルバランスを高度に満たしている機種には意外と代わりがありません。ゲーム機としてよりは、そうした「他より一回り小さいくらいのPC」としての使い勝手はかなり良いと思います。

そしてついでにゲームも出来る(あるいは多ボタンインターフェースが付いてくる)、という付加価値は、正直私以外にどれだけ刺さる人が居るかは分かりませんが、まあ私にとっては充分な満足を充分以上に引き上げてくれるものです。

GPD WIN MAX 2はあらゆる面でPCとしての側面が非常に強く、良くも悪くもゲーム機ではないなと思います。しかし、「大体なんでもやれるサブノートPC」でゲームをしてはいけない法もありません。

個人的には1ヶ月使ってみて、壊れていたSurface Pro 4の代わりを埋めて余りある良いマシンだなと感じました。


余談: 私見によるUMPC史と今後

GPD WIN MAX 2の半端なコンセプトに思うところというか、GPD WINに対する直後の機種GPD Pocketが(名前に反して)ちょっと大きかったように、小さいPCの後には「もっと使いやすいものが欲しい」という市場の声を反映してだんだん大きくなっていく流れが、どうもあるんじゃないか……? と思っているので、今まで見てきた特にUMPCカテゴリの話をちょっと書いてみます。

IBMのPC110(ウルトラマンPC)あたりまでは世代でないのでよく知りませんが、しかしLibrettoなどのいわゆるミニノートPCも徐々に大きくなっていった印象もある。

(特にここから大変に偏っている話をします。専門家じゃないので真に受けないでほしい)

2006年~: 「UMPCプラットフォーム」の興りとNetbookブーム

2000年代、Intelの打ち出したOrigamiプラットフォームに端を発したUMPC(ウルトラモバイルPC。マーケティングの都合でMID - Mobile Internet Deviceと区別されたこともある)と呼ばれる5インチ~7インチ級あたりの高額PCたちは、超低電圧版PentiumやCentrino Atom、少し時代が下るとAtom Z(省電力で高いほうのAtom)といったプロセッサを載せ、大体10万円かそこら以上のマニアックな物体として一定の存在感を維持していました。まあそもそも昔はパソコン全体が高かったんですが……。

www.vaio.sony.co.jp

www.fmworld.net

その少しあと、IntelのAtom N(安いほうのAtom)の発売によって、7~8インチ級の安価で小さいPCであるNetbookカテゴリが発生したことで、UMPCとNetbookの区別は不透明になってゆきます。高いほうのAtomだったはずのAtom Zも気付けばNetbook的端末に普通に載るようになり、UMPCとNetbookの区別がほとんどない時代に突入します(9インチ台のサブノートまでUMPCと呼ばれたりした)。

Netbook市場がUMPC市場を覆うことで、一時的にUMPCが元気になった、と表現できるかもしれません。工人舎がやっていきだったのもこの辺りですね。

www.4gamer.net

pc.watch.impress.co.jp

www.itmedia.co.jp

他にこの時期のUMPCで印象深いのはRaon DigitalのEverun Noteでしょうか。持っていませんでしたが、7インチ程度のサイズに何故かデスクトップ用のチップセットを持ってきて、当時のAtomの倍以上のゲーミングパフォーマンスを稼いでいた姿は異常に頼もしかった。

2008年~2011年頃: Netbookブームの終了によって数を減らすUMPC

2009年頃、過熱したNetbook市場が落ち着いてくると結局「無理をしない設計で、普段使いできる性能と使い勝手を確保する」という正気を各社が取り戻してしまったのか、Netbookの大きさはその元祖となったEeePCでさえ7インチから9・10・12インチへと、大サイズへの移行あるいはバリエーション展開へと徐々に傾いていきます。

Intelの意向と市場の動向が合致してか、Netbookの大型化の傾向はASUSのEeePCに限らず各社にみられ、Atom搭載Netbookは13インチ前後のCULV(Consumer Ultra Low Voltage。超低電圧版Coreプロセッサの廉価版)ノートPCというちょっと高級な変種に分岐し、そこから更に13インチ前後の薄型ノート「Ultrabook」というニュー・スタンダードの土壌になっていきます。

Intelはメインのビジネスであるマイクロプロセッサのビジネス効率を最大化するため、非常に綿密に製品出荷のタイミングを見計らい、またPC製品開発のためのプラットフォームをコントロールしてきた。

そのIntelが2008年来、取り組んできたのが超薄型ノートPCを、高価なプレミアムクラスのモバイルPCやエグゼクティブ向けではなく、ネットブックと同じように一般コンシューマが手軽に購入できる個人所有のスタイリッシュノートPCとして仕立て上げることだ。

【本田雅一の週刊モバイル通信】“新しい名前を探してます” CULVノートPCの位置付けを模索する国内メーカー - PC Watch

Ultrabookは、いくつかの魅力的な製品を別にすれば、実のところ昨年(2010年)までのスリムノートPCと大きな差が無いじゃないか、と感じた読者も少なくないのではないだろう。というのもUltrabookは、元々CULV(Consumer ULV)と通称されていた低価格向け薄型ノートPCのブラッシュアップでしかないからだ。

【笠原一輝のユビキタス情報局】3ステップでノートをリニューアルするUltrabook構想 - PC Watch

2009年の記事では、Atomのちょっと上の位置付けになるCULVプロセッサを載せた「ちょっと重いが、ちょっとパワフル」なPCをIntelが提案してきている……という概況が説明され、その後の2011年頃にはそれが薄型を強調した「Ultrabook」として定着し始めていたのがわかります。

UMPCはすぐ後のNetbookによって後押しを受け、一度はその中で発展したものの、そのNetbookの落ち着きとUltrabookの隆盛によって消えていった、という理解をしています。

熱心なファンを持つ準ウルトラモバイル的な小型ノートのVAIO type Pが出たのもこの頃(2009年)でしたが、これもあまり長続きしませんでした。

2013年~: タブレットの小型化とGPDの登場

ウルトラモバイルPCが激減して久しい中(少なくともIntelのマーケティング用語としての「UMPC」は完全に役割を終えていた)、Atomプロセッサの小型高性能化と低価格化によって、Intelはモバイルや組み込み・スマートフォンなども射程に入れ始め、すでに出始めていた10~12インチクラスのWindowsタブレットを更に小型化するという新たな「ウルトラモバイル」を積極的に提案していきます。

その結果、2013年の終わり頃、Silvermontマイクロアーキテクチャとなって大幅な性能向上を果たした第3世代Bay Trail-T(Z37xx)の登場をきっかけに小型タブレットが数を増やしていきます。

pc.watch.impress.co.jp

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7~9インチの小型Windowsタブレット、Surfaceあたりまで含むと「2in1タブレット」のブームは、エンドユーザーはともかくメーカーには広く受け入れられ、家電量販店でも3万円~6万円程度で500g未満のWindowsタブレットが買えるという、今にして思うと割と異常な状態が2~3年ほど続きました。

(この2~3年の間に、Windows 8の新たに導入したUWP戦略とタブレットモードが総スカンを食らってタッチUIが大幅に後退を余儀なくされるなどの「結局Windowsにはキーボードとポインティングデバイスが要るのでは?」と皆が正気に戻る瞬間があったためか、Windowsタブレットは大きめの2in1が主流になり、小型タブはAtomの先細りもろとも消滅していくのですが、それはまた別の話)

またタブレットに限らず、「プアはプアだが前のAtomよりはそこそこ動くし、何より安い」という小型PCが量産され、その小ささを活かしたスティック型PC(Intel自身がCompute Stickをリリースしていた)や、メディア再生支援機能を活かしたセットトップボックス的なPC、キーボード型PCなど、いろいろな形状のマシンが発売されていきます。

そして第4世代Atom(Airmont)、Cherry TrailでGPUの実行ユニット数が倍増すると、このチップでゲーム機を作ろうと考えるやつが出始めます。

2016年、中国のGamePad Digital社(のちのGPD)は今まで作っていたAndroid搭載エミュレーターマシン「GPD XD」の文法を取り込み、結果的にかつてのハンドヘルドUMPCに限りなく近い5インチ級マシン「GPD WIN」を作り上げました。

dokolog.net

win-tab.net

その翌年にはゲームパッドを持たないラップトップ型UMPC的な7インチ機「GPD Pocket」をリリースします。

pc.watch.impress.co.jp

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先述の通りこれもハンドヘルドのGPD WINに対する大型化といえば大型化ではあるのですが、しかしこのGPD Pocketの7インチ級という、ラップトップとしては限界に近い小ささの(そして余計なゲームパッドを持たない)スタイルは好評だったとみえ、One-netbook社の「One Mix」など追従する機種が続々と現れ、2022年時点でもドン・キホーテのプロデュースのNANOTEシリーズなど、根強い展開が続いています(今年はどうなるか分かりませんが……)。

あくまで私にとっての理解ですが、現行のUMPCは言い出しっぺのIntelの定義から無関係となって久しく、「Atomタブレットの流れを汲むGPD以後の、9インチ以下のモバイルノートPCの流行」ということになります。そういう意味でも、GPD WIN MAX 2はサブノート(小型ノート)とハンドヘルドの特徴を併せ持ってはいても、「ウルトラモバイル」の感はありませんね。

ラップトップへのゆるやかな回帰

先に挙げた代表的なラップトップ系UMPC(ゲームパッドが無いためグワシと掴む前提の無いもの)として始まったGPD PocketとOne Mixがどちらも少しずつ大型化してきているのは、興味深い事実です(GPDには別路線かつゲームパッドのないMicroPCなどもありはしますが)。

GPD機種 外形寸法 ディスプレイサイズ
GPD Pocket 180 x 106 x 18.5mm 7インチ
GPD Pocket 2 181 x 113 x 14mm 7インチ
GPD P2 Max 206 x 149.5 x 14.2mm 8.9インチ
GPD Pocket 3 198 x 137 x 20mm 8インチ
(参考)GPD MicroPC 153 x 113 x 23.5mm 6インチ
(参考)GPD WIN MAX 2 227 x 160 x 23mm 10.1インチ
One-Netbook機種 外形寸法 ディスプレイサイズ
One Mix(2, 2s, 1s含む) 182 x 110 x 17mm 7インチ
One Mix 3(3s含む) 204 x 129 x 14.9 8.4インチ
One Mix 4(4s含む) 227 x 157.3 x 17mm 10.1インチ

キーピッチが狭い、キー配列が変(One Netbookは大型化してもずっと変な配列なんだが……)、作業領域が狭い、バッテリーがもたない、処理性能が低いなどの評価を気にしているのでしょうか。設計製造と持ち運びと使い勝手の最大公約数を探っていくと少しずつ大きくなってゆくのであれば、それはおそらく第1期UMPCやNetbook、Atomタブレット等が辿ってきた道筋と同じです。

呼び方 ディスプレイサイズ
7インチ以下 ハンドヘルド、パームトップ、ウルトラモバイル
9インチ以下 ウルトラモバイル(広義)、ミニノート、サブノート
10~12インチ 小型ラップトップ、B5型ノート
13~14インチ ラップトップ、A4型ノート
15インチ以上 大型ラップトップ、大型ノート

重量や厚み、狭額縁デザインによるサイズの変化などはありつつも、Appleを含むメジャーPCメーカー各社は長らくノートPCのサイズの最小を概ね11~12インチ級(たまに10インチ)に規定し、スタンダードは13~14インチ、大型は15インチ以上……といった区分にしているのも、それなりの理由があるのだろうと想像はつきます。特に最小が10インチ程度、横幅にして20センチを切らずに居続けているのは、画面サイズやキーボードを中心とした使い勝手の問題が大きいのではと考えています。

ぐだぐだとやってきましたが、まとめとしては、ラップトップをそのまま縮小したようなウルトラモバイルは、再び通常サイズのラップトップに回帰しがちといったところでしょうか。次のGPD Pocket(順当に行けばPocket 4)がWIN MAX 2やOne Mix 4sの影響を受けて、もう何も "Pocket" ではない800gくらいの10.1インチサブノートPCになってもおかしくはないし、そのほうが一部のUMPCマニア以外には絶対に売れるでしょう(GPD WIN MAX 2に対して「ゲームパッドは要らないからマトモな位置にタッチパッドを付けて200g軽くしろ」という言い分を多く見てきて少し辟易しているところがある)。

そうした淘汰圧のようなものを超えて「ウルトラモバイル」であり続けるには、遺憾ながら、キーボードを外すとか、クラムシェルをやめるとか、ゲームパッドを付けるとか、x86でない又はWindowsですらないとか、何か必然を設けなければならないのかもしれません。

個人的な好みを言えば、GPD WIN 2をブラッシュアップした5~6インチクラスのクラムシェル筐体に現行10W~15Wくらいの性能のプロセッサが載っているような超小型PCが、更にあくまでゲーム機という言い訳で存在してくれると嬉しいのですが(GPD MicroPCにスティック付けたようなやつ)、そういう意味では望みは薄いような気もします。WIN 4に行かず持ち運びノートのポジションにWIN MAX 2を置いた以上は、今回はそのように使い倒していく所存です。