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Vaporwareではなかった「Minimal Phone」、しかし信用はどうか

『戦隊レッド 異世界で冒険者になる』アニメ版、良かったですね。まだ放映は終わっていませんが、ホビーアニメをやりたいと公言しつつも朝と深夜が転倒したような作品を作りがちな印象のある川口敬一郎監督にはまさにうってつけの原作だと思います。

今回はクラウドファンディングの続きの話をします。

3行でまとめ

  1. E-inkとQWERTYキーボード搭載端末Minimal Phone、遅れつつも出荷された
  2. ただし初回出荷時点でFCC/CE認証が未通過だったためか、1ヶ月ほど出荷を停止
  3. 傍目にも朝令暮改や自画自賛がキツすぎるけれど、今後ビジネスがうまくいけば改善されるかも

Minimal Phone おさらい

Minimal Phoneは去年始まったクラウドファンディングプロジェクトです。

E-InkとQWERTYキーボードを備えた無二のAndroid端末

eps-r.hatenablog.com

当blogでも先行出資期間の終了間際とされた4月に取り上げつつ、

  • プロジェクトオーナーの詐欺師か山師か、という感じの前歴
  • ほぼワークしてなさそうなワーキングプロトタイプと、あからさまに未確定のスペック表
  • 強気すぎるスケジュール

という点を挙げて、個人的には出資しなかったと書きました。Advanced/W-ZERO3 [es]やF(x)tec Pro1、Unihertz Titan Pocket、Titan Slimといったビルトインキーボード端末を折に触れて使ってきたので興味はあるのですが……。

前回から約1年の間に何があったか

Indiegogoのアップデートを抜粋すると、だいたい以下のようなことがありました。

時期 内容
2024年4月(1, 2)
  • Indiegogo出資期間の終了。ただしIn-Demand枠(追加出資枠)は継続しているので、単に割引期間が終了しただけ
  • 元BlackBerryのSimon BrooksがCTOに就任
2024年5月(1, 2)
  • 外形デザインのブラッシュアップ
  • 新しいロードマップの公開。8月の出荷予定を9月末に変更
2024年6月 PCBA(組み立て済み基板)レイアウト完了
2024年7月 PCBAのデバッグ
2024年8月 組み上がったエンジニアリングサンプルの公開
2024年9月 ハンズオン動画の公開。9月末の出荷予定を11月~12月の間に変更
2024年10月 量産試作プロセス
2024年12月 出資者向け出荷予定を1月20日開始~3月末に完了と再設定。FCC認証は1月初旬に完了予定
2025年1月25日 出荷開始
2025年2月14日
  • ファームウェアのバグ修正や機能改善の作業中であると報告。FCC認証は皆さんが端末を受け取る前に完了する予定(will be completed before you receive your phone)
  • 注文処理を公式サイトに一本化するためにIndiegogoのプロジェクトを「終了」ステータスに設定(Discussionより)
2025年3月2日 FCCの認証を獲得。3月17日に発送を再開し、3月いっぱいで出資者全員に行き渡る予定

このあたりについて幾つか思うところを書いていきます。

完成したのはすごい

2月初旬頃、特に日本人の着荷報告がXやnoteなど数例確認されているので、量産できたのは確かなようです。

これには本当に驚いていますが、思えば出資期間後の5月のアップデートで当初の3:4か2:3のアスペクト比を16:9に寄せる仕様変更があった時点で「どうやら調達できる部材で現実的なAndroid端末を作ろうとしているらしい」と思わせるものがありました。

というのも、金を集めるだけ集めて何も具体的な話をしないまま1年くらい無駄にしたPGSというプロジェクトを過去に見てきたからですが、まあそれは関係なかった。

FCC未通過で平然と出荷するのは有り得ない

スケジュールの遅延としては当初8月の予定から5ヶ月ほど遅れ、1月に極少量のファーストバッチ、本格的な発送が3月からなので実質半年ばかり遅れているわけですが、それでもそもそも完成自体が博打だと思っていた私からすると半年で済んだねと思ってしまうところはあります。言い方は悪いが……。

先に挙げた表でも3回ほど延期の形跡があり、普通に考えてもあと何回延期してもおかしくありませんが、それ自体はスタートアップの新規プロダクトのやることなので、文句を言っても仕方ないという感想です。なんなら今後Indiegogo分を後回しにしてオフィシャルサイト注文組が先に製品を手に入れたとしてもおかしくないまである(これもクラウドファンディングにはよくある。よくあっちゃいけないが)。


では私が何を気にしているかといえば、FCC認証です。アメリカの電波法、日本では技適制度にあたるものですね。

事実を時系列に改めて並べると、こうなります。

  1. 昨年12月に「1月初旬にFCC認証を受ける予定です。これはMinimal Phoneがすべての規制基準を満たすための重要なプロセスです(a key step in ensuring the Minimal Phone meets all regulatory standards.)」と報告
  2. 1月25日に出荷の報告
  3. 2月初旬に受け取った客が出始める
  4. 2月14日に「皆さんが受け取るまでにはFCCの認証が下りる予定」と報告
  5. 3月2日に「FCCの認証が下りました」と報告

どう読んでも2番でFCC認証を受けないまま出荷した結果、着荷と認証が前後していて、これは問題になります。1月中の量産という実績をどうしても作りたかったのか?

FCC未認証の端末を流通させることは、日本における技適と同様に出荷停止や回収といった処分を受けるのが普通だと聞いていますし、連邦通信委員会から追徴金を課せられることもあるはずです。


私個人の感覚の話をすると、例えば海外の携帯電話が日本向けの技術基準適合証明・工事設計認証を取得していなかった場合でも、日本で使える状況というのは幾つかあるし、仮に違法な状態であっても実害は起きにくいだろうと考えています。FCC/CE相当の認証をパスしてさえいれば。

FCCやISEDなど何らかの機関の認証をパスしていてこそ、極東の島国向けのローカルの認証は飛ばしても仕方ない(仕方なくはないが)という感覚が生じるのであって、米国どころか、何処の認証も通っていない端末をしかも国外に流通させた時点で、法よりゆるいはずの私の倫理もアウトと言わざるを得ません。あるいは国外だからこそ取り締まられないと見切ってやったのかもしれませんが、それなら尚悪い。

しれっとFCC未通過の端末を出荷しておいて*1、「当初は詐欺と呼ばれた我々だが今りっぱに、すばらしいスピードで製品は完成した」だの「我々は情報中毒に中指を立て、このMinimal PhoneでSNSとの付き合い方を革新する」だのと、Xで思想と自画自賛を乱射するプロジェクトオーナーには閉口しているし、完成にこぎつけたことで得られるはずの信用が、私にとってはマイナスに振り切れつつあります。

今後ビジネスが成功すればまとまるかも?

他にもIndiegogoプロジェクトのクローズや、結局なにを提供するのか最初から最後までよくわからないFounders Edition(これは出資者の人も怒っていて、そりゃそうだよ)など首を傾げるところは幾つかあります。

とはいえ、そうですね。例えばウルトラモバイルPC企業のGPD(中国・深圳)もプリインストールされたボリュームライセンス版Windowsが時々Expireして客に損させてるとか、プリインストールされたWindowsがマルウェア入りだったとか、めちゃくちゃなことを繰り返しているうちにいつの間にかUMPCの雄みたいな扱いになっていたりするので、商売が軌道に乗って5年ほど経ち、一定のファンと新規の客が付いてくるほどになれば落ち着いてくるのでしょう。

こういうビッグマウスやゴチャゴチャもクラウドファンディング、スタートアップの味といえばそうかもしれませんが、限度はどこかにあります。

以上です

うだうだと書いてきましたが、Minimal PhoneについてはSNSやプロモーションもいまだにそこそこ活発なのでセカンドバッチ以降もおそらく出荷されてくれるでしょうし、今回あえて一切言及しなかった端末の使い勝手自体は筋のよいものかもしれません。出資・購入した方々に損のないよう着地できるといいなと願っております。

www.clicks.tech

なんちゅうスタイリングだ

余談ですが、私は5月末以降に発売されるという縦フォルダブル端末用QWERTYカバー、Clicks Keyboard for Razrを予約しました。展開するとテレビのリモコンみてえになってるけど本当に大丈夫なのかこれ。

*1:繰り返すがFCCをパスしていても技適を取得してない時点で日本向けには違法ではある