厚さ7mmの超薄型ノートPC「Craob X」は白昼夢のたぐい(今のところ)

結局「どこかのデザイナーのポートフォリオとして作られた架空のコンセプト説(https://twitter.com/Takaaki_Ichijo/status/1489036361718185984)」が一番ありそう。

君はCraob Xを見たか

craob.com

今月頭くらいに話題になったCraob XというノートPCがありまして、

世界初の「ポートレス・ウルトラブック」を標榜するそのPCの厚さはなんと7mm

Specs at a Glance

そのうえ何も諦めないスペックで、ラップトップとしては上位のCPUを載せてきます。表示や足回りも4Kディスプレイ・RAM32GB・最大2TBのストレージと余念がありません。

One more thing、充電器を兼ねたポートアグリゲータ的な何か、「ポート・ハブ」が背面に磁石でくっつき、Thunderboltでの高速通信や3.5mmヘッドホンジャックをサポートするという。

夢と現実の区別をつけたい

この奇ノートPCであるところのCraob X、海外メディアではMy Laptop Guideを皮切りにArts Technicaなど幾つかのサイトで記事が書かれ、日本でもGIGAZINEギズモード・ジャパンマイナビニュースなどで取り扱われました。

ニュースへのtwitterはてなブックマークなどの反応を眺めてみると、

  • (実現性によらず)肯定的
    • ミニマルでカッコイイ
    • 出たら欲しい
    • Appleの先を行くアイデア
  • 実現を前提にして否定的
    • ポートが無さすぎて実用性が低い
    • 薄すぎて剛性がなさそう
    • ポートハブが邪魔
  • 実現そのものに懐疑的
    • 給電速度
    • データ転送速度
    • 排熱
    • 内部パーツの厚さと容積

だいたいこんなところでしたが、まあ剛性だのポートが邪魔だのは実物が出てから改めて心配すればいいんじゃないですかね。どうせ出ないので。

メディアの扱いでは特にギズモード・ジャパンの手つきが最悪で、

現時点ではまだ販売の詳細が発表されていないcraob x。その先進的すぎる設計に、「本当に製品発売に漕ぎつけるのかな…?」と若干不安にもなってしまいますが、ぜひその美しいボディをこの手にとってみたいものです。

ノートPCから外部ポートをなくしたら薄さ7mmになった。スタイリッシュな薄型PC「craob x」 | ギズモード・ジャパン

若干どころではありません。一般人はともかくテックメディアを自称するからには夢と現実の区別をつけてほしい。懐疑的な視点を忘れていないマイナビデイリーガジェットあたりのほうがだんぜん正気に見えます(GIGAZINEもひどいんだけど、あそこはテックメディアじゃないからまあ……)。

Craob Xの現実味は、KickstarterやIndiegogoに出ていたら容赦なく「これは詐欺だ」と糾弾してよいあたりにあると思います。

排熱

たとえば、採用するCPUは前記のようにIntel Core i7-1280P(第12世代Core "Alder-lake")とされています。

www.anandtech.com

公式の仕様公開サイトIntel Arkに記載がないのでAnandTechを引っ張ってきましたが、i7-1280PのTDP(熱設計電力の目安)はモバイル向けとしては比較的高い28W。このクラスで "Beast Like Performance" をフルに発揮させるつもりならば放熱ファンはどうしても必須ですが、「ポートレス」でミニマルでおしゃれなPCにファンなんてダサいものを載せるとは考えにくいです。

定規を当ててみましょう……筐体の厚みはどう見ても3~4mm(!)がせいぜいで、これにファンを搭載できるかといわれれば極めて難しい。

キーボード側と画面側とを足して7mm程度なので能書きには矛盾しませんが、矛盾しないから困る。いきなり八方を塞がれている気分です。

給電能力

どうにかして28WのCPUをフルに動かす算段がつくとして、CPUだけでなくマザーボードやディスプレイを含めたシステム全体をフォローする外部電源としては最低でも45W程度の給電能力は必須でしょう。

広く使われている無線給電規格Qiの標準は15Wがリミットですが、仕様として各社の独自拡張を許しています。Huaweiあたりは50Wの充電スタンドを出荷しているので、物理的には可能なことがわかります。

逆に言うとHuaweiスマートフォンくらいしかやっていない、「広くない技術」です。そういった類のものを無名のメーカー(であるかどうかすら不明な者)が扱えるのでしょうか。

給電で付け加えると、ファンの項目でも挙げた通りとにかく筐体のキーボード側(下側)が薄すぎるので、バッテリーの体積が確保できるかも直感的には気になります。

データ帯域

Thunderboltを無線化するチップや機材は寡聞にして知りません。近距離・高速通信の汎用規格はTransferJetやIEEE802.11ad、WiGigなど幾つかありましたが、Thunderboltとの互換性を獲得するといった情報はありませんし、帯域がそもそも足りていません。

そして「ポートハブ」に、45W以上の無線給電の独自規格と、GB/秒単位の無線双方向通信の独自規格が同時に備わっている……本当だとしたら、この技術を確立できるハードウェアメーカーは極薄のPCなんか作ってないでそれこそAppleLenovoらに売り込みをかけるべきです。本当ならば。

重量バランス

というか、このポートハブ。装着したら倒れそうじゃないですか?

体積の割にやたら重い(倍くらい厚い富士通Lifebook UHより200gも重い)のはそこを見越してのことかもしれませんが。

ソースの作りも広がり方も怪しい

あまりメジャーなサイトではないらしい(twitterのフォロワーは50人も居ないMy Laptop GuideがどのようにしてこのCraobを発見したのか、「独占リーク」と言っていますが実際のところは謎です。

Craobのウェブサイトの画像URLや更新日時を確認する限り、去年の12月にはサイトは仕上がっていたように見えます。そこから2ヶ月更新がなかったとして、彼らのいう「詳細は近日公開」が一体いつなのかを知るすべはありません。

そして元はと言えば彼らCraobのサイトには会社概要ページが無いので、国も代表者名も資本金も何もかもの情報が存在しません。本当に社名なのかも分からない人のCGが、AppleLenovoの先を越したと言えるのでしょうか。

電源・USB・HDMIなどあらゆるポートをなくしたわずか7ミリの超薄型ノートPCが登場

スペック盛りすぎだし画像はコラだし嘘くさすぎる <a href="https://www.pexels.com/photo/focused-worker-using-laptop-in-office-lobby-4173263/" target="_blank" rel="noopener nofollow">https://www.pexels.com/photo/focused-worker-using-laptop-in-office-lobby-4173263/</a> <a href="https://www.pexels.com/photo/woman-in-white-long-sleeve-shirt-sitting-on-chair-4114637/" target="_blank" rel="noopener nofollow">https://www.pexels.com/photo/woman-in-white-long-sleeve-shirt-sitting-on-chair-4114637/</a>

2022/02/02 23:00
b.hatena.ne.jp

Focused worker using laptop in office lobby · Free Stock Photo

Woman in White Long Sleeve Shirt Sitting on Chair · Free Stock Photo

あと、サイトの活躍予想図もフリー素材にCGを当てはめたものです。見つけた人すごいな。

どうあると「リアリティ」が出るか

要するに反対のことをするといいのですよね。

  • 会社概要を書く
  • 更新予定と出荷ロードマップを書く
  • レンダリングでもいいから説得力のある内部構造を載せる
  • プロダクトの実現性を高める
    • システムの消費電力を下げる
      • 5W~10W級プロセッサとFullHDディスプレイの組み合わせなど
      • どう考えても本機のライバルはSurface Pro Xであって、Surface Pro 8や同Laptopではない
    • 無線Thunderboltとかの無茶を言わない
      • 隆起や凹みを作ってでもUSB-Cポートを置くべき

「物理ポート全廃」「世界最薄」「上位の処理性能」を3つとも取りに行くのは欲張りが過ぎます。

USB Type-C物理ポートが1本でもあれば給電は解決するし、2本あればThunderboltの帯域も十全でしょう。更に薄さを諦めるなら28WのCore i7を載せてもいい。

処理性能のほうを諦めて5W~10W程度のプロセッサにすれば薄さも狙っていけるかもしれません。個人的には強度やヒンジなどの構造設計にこそメーカーの体力や経験値が出ると考えているので、薄さこそが一番難しいのではと思ってもいますが……。

要するに、およそ出来そうにないことを堂々と書きすぎているのだからこそジョークや釣りの可能性が高いのです。本気でデバイスを作る気のある者ならば無謀なスペックを羅列しません。スタートアップに手の届きそうな現実に落とし込んでいけばいくほど、まあ面白くないデバイスにはなるでしょう。

まとめ

金を取ってたらこんなもんじゃ済まないほど怒られるべきですが、Craob Incは金を取ってないので、詐欺呼ばわりされるほどのことはしていないとは、思います。

どちらかというと世間の反応のほう、「カッコイイ」「出るなら欲しい」みたいなピュアな持ち上げならまだしも、「今のAppleにはチャレンジ精神が足りないんだよね~~」「Appleは先を越されたね~~」なんて知ったかぶってAppleや既存メーカーを煽っている人たち……いや、そういう気持ちをくすぐってせっせと焚きつけるギズモードみたいな無責任なやり方に思うところがあると言いますか(あとM1 Macはちゃんと攻めたプロダクトだと思う)。

ノートPCは薄く速くなり続けてきましたから、今以上に薄いノートPCだって、Thunderbolt的な超広帯域通信の無線化だって、いずれ誰かが実現させるかもしれません。ただそれはCraobではない。あのサイトに明記されたスペック通りの端末を2023年中に出荷できたら驚異的です。

Oculus Riftが発表時と最初に出荷されたDevelopment Kitでなんだかすごく違っていたように(まあ開発キットだからね)、夢は叩き上げられ鍛えられながら現実に落とし込まれるものです。Appleがアホみたいな白昼夢と比較されるのは強い期待のあらわれですから、それ自体は実は悪いことではないはずですが、しかし、だとしても、土俵が違いすぎるというか、あまりに過分な期待なのでは……とは、どうしても思いました。

うまくまとまりませんでしたが、「専門外の人が片手間ではしゃぐならともかく、仮にもテックメディアとされているギズモードみたいなところが同じはしゃぎ方をするのはヤバいよ」ということにしておきましょう。

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当blogはこれまでにも何度か夢(≒詐欺)のガジェットの話をしているので良かったらどうぞ。

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嘘ガジェットに対して過敏になっているのは、こういう「有害な夢」ばかり追いかけてきたせいもあるかもしれません。