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不思議の謎を解かねばならぬ

72万ドルごと消えつつある夢の四つ折りセパレートPC「Dragonfly Futurefon」

みなさんはDragonfly Futurefonをご存知でしょうか。

これはアメリカの新興メーカーidealfutureによるポータブルコンピュータで、この生まれる前から失われようとしているすごさがあまり世間に伝わっていないので書いておこうというのがこの記事の主旨です。

名前には「Dragonfly Futurefön」のようにウムラウトが付くのが正しいのですが、この記事では現公式サイトに倣い「Dragonfly Futurefon」または「Dragonfly」と表記します。

コンセプト

公式動画と紹介ページの画像でこの意味不明なパワーが伝わるでしょうか。圧倒されるあまり画像をペタペタ貼って頭の悪いコメントを付けることしかできません。

www.youtube.com

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7インチのディスプレイが2枚並ぶ時点で只事ではないマシンです。

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これはディスプレイが裏返り、中央で折れる様子です。なにが何だかわかりません。動画を見てください。

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スタンド付き7インチWindowsタブレットとして運用できると主張しています。

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四つ折り状態のトラベルモードは非常にコンパクトであることでしょう。

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さらに片方の画面は分離して「Dragonfly Slingshot」というAndroid端末*1になります。また合体時はWindowsAndroidを切り替え、どちらのOSでもデュアルディスプレイとして機能すると言われています*2

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このSlingshotというAndroid端末にSIMを挿しておけばWindowsマシンからその通信回線が使えるし、もちろんSlingshotで電話もできる。

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つまりDragonflyさえあればお前は持ち運ぶデバイスを削減できます、いいですね。というのがidealfuture社の主張です。PC・タブレットスマートフォンの3台持ちは多すぎると。なるほど。

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そしてもうひとつ(One more thing)‥‥ヒンジの裏にはBluetoothヘッドセットまで入っている!

簡単にいえば、Core i7搭載のハンドヘルドPCとSnapdragon 820搭載の7インチファブレットの合体マシンというわけです。

これがなんとたったの約800ドル*3で手に入るとは、夢のような機械だと思いませんか。多くのCore i7搭載ノートPCよりも安いのです。

クラウドファンディングのあらすじ

夢のようなマシンも出荷されなければ夢のままであり、Vaporware(ベーパーウェア、出す出す詐欺)に過ぎません。

Dragonflyは、2014年10月つまり本記事から約2年前にクラウドファンディングサイトIndiegogoで発表され、今なお完成していない幻のデバイスです。

時期 できごと
2014年10月 全く新しいデバイスDragonfly Futurefonのクラウドファンディングの受付開始。目標額1万ドルを1日で達成。
Forumにて当初の発送予定を「2015年前半」と返信
2014年12月 Dragonfly Futurefon、目標の約64倍の額(約64万ドル)を調達しゴール。
以降プロジェクトページの更新は時候の挨拶を含め月数回行われる
2015年1月 ハードウェアの入手性と仕様変更の要因によって開発・出荷が遅延する可能性があることに言及
2015年5月 メカニカル・エンジニアリング・プロトタイプの動画(vimeo)が公開される
2015年8月 プロジェクトの遅れを認め、Apple Watchだって遅れているのだからと言いつつ年末までの出荷を宣言する
2015年10月 出資の一次締め切りから10ヶ月目にしてワーキング・プロトタイプの動画(vimeo)が公開される
2015年12月30日 プロジェクトページにて年内を予定していた発送が遅延していることのお詫び。理由はUSB Type-C対応と、当初予定していたSnapdragon 801をキャンセルし810は熱問題でスキップ、820の調達に掛かっていたためと説明
2016年3月 次世代プロトタイプの設計を続けていることを報告
幾つかのコンポーネントが済み次第アルミをカットしてプロトタイプの製作に掛かるとのこと。
同時に発送予定を同年8月に設定(無理では?)
2016年4月 Forumにて「そろそろ2年になるけど進捗どうよ」と聞かれ「2年目まではあと半年あるし、大幅な再設計込みで2年で出荷できたら注目に値すると思う」
2016年5月 特に進歩のみられないメカニカル・プロトタイプの動画 (vimeo)を公開
2016年7月 ベンチマーク・エレクトロニクス社と協業しプロトタイピングを向上させてゆくと発表(1, 2)

駆け足で追ってきましたが、要するに1年半かけて外形デザインすら曖昧で、基板やファームウェアの詳細なども一度も公表されていない*4、分かっているのは美麗な完成予想図のCGと言いっぱなしのスペック表(ただし時々変わる)くらいという状態です。良さそうなニュースと言えば最後に企業との協業が決まったと主張していることでしょうか。

クラウドファンディングの集金額は最終的には72万6237ドルに達しましたが、数年単位のプロジェクトになってきている現在では、この程度で本当に足りるのか、今幾ら残っているのか、これから完成させて数百台の出荷をこなせるのか、他人事ながら心配になってきます。

ただ、これだけならMorphyOne事件*5が現代によみがえったような印象ですが、それに留まらない話があります。

詐欺のあらすじ

繰り返しますが夢のようなマシンも出荷されなければVaporware(出す出す詐欺)に過ぎません。そしてここからは上に挙げなかった、出す出す詐欺でない単なる詐欺を含む話をします。

話題は恣意的に選んでいますので、公平性に疑問のある場合や、「バックトゥザフューチャーから30年経ったね良かったね俺たちも頑張るゼ」のような与太話に興味のあるかたは各自検索してUpdatesやForumを掘ってみてほしいと思います。実際私もForumの全部までは見られていません。

創業者前史

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まずひとつに、idealfuture創業者のJeff Batio氏は00年代前半にXentex社の会長兼CEOとして四つ折りノートPC Flip-pad Voyagerを開発していました。

このXentex社はマーケティング能力および財務状況について株主に虚偽の報告(ようするに粉飾ですかね)をしていたかどで訴訟を起こされていたと言われており、詐欺を働いたかどうかは別にしてもFlip-pad Voyagerのビジネスは上手く行かなかったというのが実状のようです。本当に量産出荷されたんだろうか。

Dragonfly前史~出資受付まで

創業者だけでなくDragonfly Futurefonにも前史があることを説明しなければなりません。これはDragonflyが出資を受け付けるちょうど1年前の話です。

時期 できごと
2013年10月 idealfuture、全く新しいデバイスif convertibleクラウドファンディング受付開始
2013年12月 if convertible、1万ドルの目標に対して約1.7倍(約1万7000ドル)を調達しゴール。その後convertibleのプロジェクトページは一度も更新されず
2014年10月 全く新しいデバイスDragonfly Futurefonのクラウドファンディングの受付開始。目標額1万ドルを1日で達成。
Forumにて当初の発送予定を「2015年前半」と返信

どういうことかというと、Dragonflyはidealfutureの最初の製品ではなく、そのちょうど1年前にif convertibleというデバイスクラウドファンディングで小規模な成功があり、そして発送されることはなかったという事実があります。

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タブとURL欄の違いをお判りいただけるでしょうか? 上がif convertible、下がDragonfly Futurefonです。

この素知らぬ顔でIndiegogoに戻ってきたかのような奇妙な一致について、idealfutureはニュースサイトの取材に答え、「我々はif convetibleがイケてないと思ったから仕切り直したし、convertibleの出資者にはより進化したデバイスであるDragonflyを渡す合意を得ている」のようなコメントを残しています。

2014年(出資期間中~ゴールまで)

時期 できごと
2014年10月頃 Docking Stationを開発中と報告。上がった写真のEXIFから、開発風景自体が全く別のプロダクトの流用とバレる

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この巨大な一式がDockだそうです。

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そして開発風景(写真左)とされるものは2007年の写真で、Dragonflyよりも当然古いこのしろものは、同じ発起人によるデュアルスクリーンデスクトップRadian Office(写真右。これも出荷された様子はない)の開発過程を流用したものとみられています。

いや、実物が出来上がっていないからクラウドファンディングなのだし、ここまででも散々出しているDragonflyの活躍予想図がレンダリングやモックであること自体には怒る者は居ないでしょう、過去のデザインを流用するなとも言いません。ですが、わざわざこんな、さも「今アルミを削ってます」という体の画像を出してフェイクとバレるのはとても心証を悪くするのではないでしょうか。

時期 できごと
2014年11月 プロジェクトページにて出資額の集まり次第で出資者への還元額が100%まで上がってゆくベータテストプログラム実施を宣言

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何度読んでも信じがたい話ですが、最も警戒すべき情報だったと思います。だいたい、只でさえ明らかに儲けの出ない額で出資を募っているにもかかわらず更に出資者に金が戻ってくるようなキャンペーンが何故IndiegogoからBANされないのか。

時期 できごと
2014年12月 Dragonfly Futurefon、目標の約64倍の額(約64万ドル)を調達しゴール。
以降プロジェクトページの更新は時候の挨拶を含め月数回行われる

そして圧倒的な勢いで集金に成功します。Indiegogoはシステム上Goalの後も出資を受け付けることができるため、先述の72万6237ドル、前史のif convertibleを合わせれば74万ドル余まで伸びました。

余談ですが、この72万から74万ドルという数字は偶然にもMorphyOneの予約金総額といわれる8000万円に近いですね。

2015年(開発期間)

時期 できごと
2015年5月 メカニカル・エンジニアリング・プロトタイプの動画(vimeo)が公開される
2015年8月 プロジェクトの遅れを認め、Apple Watchだって遅れているのだからと言いつつ年末までの出荷を宣言する
2015年10月 出資の一次締め切りから10ヶ月目にしてワーキング・プロトタイプの動画(vimeo)が公開される

このデモに出たプロトタイプらはフェイク、または非常に完成度の低い物であったと考えられています。

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ワーキングプロトタイプは「デュアルディスプレイらしきWindows端末のようなものをマウスでニ、三操作した」というのが正確なところで、悪意のある言い方をすれば7インチの中華パッドに同寸のディスプレイを並べたもので同じ事ができるわけです。キーボードもタッチパッドも外部インターフェースも確認できませんし、最も肝心の着脱機構もワーキングプロトタイプではデモしなかったので、本当に作っているとしても完成には程遠いでしょう。

時期 できごと
2015年12月30日 プロジェクトページにて年内を予定していた発送が遅延していることのお詫び。理由はUSB Type-C対応と、当初予定していたSnapdragon 801をキャンセルし810は熱問題でスキップ、820の調達に掛かっていたためと説明

そういえばSlingshotに載ると称するARM側プロセッサは最新世代へと向上しているのに、PCに載るIA側プロセッサは発表当初から第3世代CoreのIvy Bridge i7-3537Uのままです。

2016年(現在の出荷予定年度)

時期 できごと
2016年3月 次世代プロトタイプの設計を続けていることを報告
幾つかのコンポーネントが済み次第アルミをカットしてプロトタイプの製作に掛かるとのこと。
同時に発送予定を同年8月に設定(無理では?)

ARMやAtomの単体タブレットじゃあるまいし外装検討から始めて5ヶ月で出荷は無理でしょう。ウソにしてももう少しマシなウソにすべきでは。

時期 できごと
2016年4月 Forumにて「そろそろ2年になるけど進捗どうよ」と聞かれ「2年目まではあと半年あるし、大幅な再設計込みで2年で出荷できたら注目に値すると思う」

Dragonflyとしては確かに2年目ですが、コンセプトから使う画像まで同じif convertibleから数えると今年は3年めです。Dragonflyからの出資者ならともかく、製作者側が勝手に前史をなかったことにするのはかなりどうかと思いますし、if convertible出資者へDragonflyを送るという約束の存在まで疑わしくなりませんか。

時期 できごと
2016年5月 特に進歩のみられないメカニカル・プロトタイプの動画 (vimeo)を公開

動画に使われている素材や背景から「これは2年前に撮影されたものではないか」という疑いがRedditで持たれています。画面に登場するアプリやメール、看板の内容から割り出しているようですが、なるほど2年前の動画なら2年前から進歩が無くても当然ですね。

時期 できごと
2016年7月 ベンチマーク・エレクトロニクス社と協業しプロトタイピングを向上させてゆくと発表(1, 2)。
こまめに行われていたForumの返信が途絶える。
2016年8月 広報スタッフのFacebookページが削除される。
IndiegogoページのIndemand(引き続き購入可能)ステータスが解除され、新規受注が停止される

7月から8月にかけて実際には上のようなことが起こっていました。要するに雲行きが本格的に怪しくなり、このままでは2周年*6を迎える前にプロジェクトは消滅し、Webページも見られなくなってしまうかもしれません。

idealfutureのオフィス(存在すれば)にしても、最悪すでに、もぬけの殻になっているかもしれない‥‥という熱い状況になってきたのが最近の流れです。

3行でまとめ

  • i7とSnapddragon 820のハイブリッドで四つ折りで分離もする凄いPCが発表された。
  • だが2年以上かけて出荷のメドどころかプロトタイプも完成していない。
  • 能書きや広報にウソ・大げさ・まぎらわしい要素が多すぎて、たぶん詐欺です。

所感

過去の失敗例であるMorphyOneの話から入りますが、あのプロジェクトの破綻した要因は大まかに「能力不足の人員によって長期間をプロトタイプの設計に費してしまった」「その設計が完了する前に基板や部材の発注を全量おこなってしまった」の2点であると理解しています*7。プロトタイプで延々足踏みしているDragonfly Futurefonも少しだけ似たかっこうに見えますね‥‥。その、ベータテストプログラムやフェイク写真さえなければ。

それにKickstarterでもIndiegogoでもMakuakeでもプロジェクトの不透明な経過報告や遅延はザラと聞きますから、クラウドファンディングにはよくある厳しい出来事と言えるかもしれません。ええ、ほんとうに、返金を謳うベータテストプログラムさえなければ。

ですからやはり詐欺か、でなければ私の理解を超えたおぞましい何かであると思います。これはあくまで理解できる範囲の想像ですが、if convertibleで小規模な(詐欺の)成功を収め、たまたま手の後ろに回らなかったidealfutureがウェブサイトを整備して全く同じ方法でもう一山当て、あとは金を処分しつつも出資者から訴えられないよう、なだめすかしているのではないか‥‥。

‥‥いや、もちろん。このようなものすごいコンセプトのPCが完成し、発送され、あわよくばリベートが各人に配られ、全ての約束が守られればそれに越したことはありません。しかし残念ながら勝率は高くなさそうです。

おわり

クラウドファンディングは商品力や意思の強さを訴えかける手段として美談になりがち、または美談を演出されがちです。しかし幾ら商品が魅力的に見えても当たり前に頓挫したり詐欺だったりするので、今更のことですが注意してかかりましょう。

と言いつつDragonflyをスルーした筆者も5.5インチクラムシェル端末GPD WINに300ドル出してしまい、頭を抱えているのですが(いや、順調は順調なんですけれども)‥‥まあGPD WINの話はGPD WINが届くか死ぬかしてから、ゆっくりとしましょう。

参考

*1:開発者は7インチスマートフォンまたはファブレットと主張している。

*2:Win-Droid Versionのみ。なおSlingshotと本体の内部接続をどう解決するのかは不明。

*3:キャンペーン期間中は300ドルから600ドルのことも

*4:Forumで「特許があるので詳細は言えない」としたことがある。

*5:モルフィーワン事件。「HP社の傑作ハンドヘルド機HP200LXの後継を作ろう、金さえあれば余裕で作れる」と意気込んでユーザーから予約を募ったが、開発は遅延に遅延を重ねついには破産に至った。

*6:if convertibleを含めれば3周年

*7: 参考: ASCII.jp:モルフィーワン計画が中止の危機? 渦中の開発者に聞く